#87 全身バイブレーショントレーニング(WBV)の長期的な効果に着目した論文レビュー

ALL EVIDENCE BASE TRAINING

本記事は、前回と前々回の
”全身バイブレーショントレーニング(WBV)と怪我の予防に関する論文レビュー”
”全身バイブレーショントレーニング(WBV)の短期的・即時的な効果に着目した論文レビュー”

で明らかになったWBVトレーニング(全身振動トレーニング)効果を踏まえた上で、さらにこのトレーニングの長期的な効果に着目した研究を紹介していきます。

目次

  • WBVトレーニングとレジスタンストレーニングの筋力に対する効果の比較研究
  • WBVトレーニングにおける、女性の柔軟性、膝屈筋の筋力、およびハムストリングス対大腿四頭筋の強度比の改善の研究
  • スプリントトレーニングを受けたアスリートの筋力とスプリントパフォーマンスに対するWBVトレーニングの影響の研究
  • バスケットボール選手の身体能力に対するWBVトレーニング効果の研究
  • 女子バスケットボール選手の力の生成に及ぼすWBVトレーニングの影響の研究
  • 異なる周波数と振幅を使用して、WBVがジャンプパフォーマンスとボディバランスに及ぼす長期的な影響の研究
  • まとめ

WBVトレーニングとレジスタンストレーニングの筋力に対する効果の比較研究

【目的】
12週間のWBVトレーニングとレジスタンストレーニングが人間の膝伸展筋力に及ぼす影響を調査して比較する。
【方法】
普段トレーニングを受けていない67名の女性(21.4 +/- 1.8 yr) を対象にコントロールグループ、バイブレーショントレーニンググループ、プラセボバイブレーショントレーニンググループ(バイブレーショントレーニンググループと同じエクササイズを行いますが、プラットフォームの強度はほとんどありません)、および筋力トレーニンググループの4つのグループに分けた。
【結果】
バイブレーショントレーニンググループと筋力トレーニンググループ(他の2つのグループは変化がなかった)で等尺性とダイナミックな大腿四頭筋の筋力の増加を示した。しかし、反動ジャンプではバイブレーショントレーニンググループでのみ改善した。
【結論】
WBVが引き起こす反射性筋収縮は、適度な強度でのレジスタンストレーニングと同じ程度に、以前にトレーニングを受けていない女性の膝伸筋に筋力増加を引き起こす可能性がある。 WBVトレーニング後の強度の増加はプラセボ効果に起因しないことが明確に示された。

この研究から導き出すことができる最も重要な結論は、バイブレーショントレーニングが筋力トレーニングと同様の変化があったということです。筋力トレーニンググループのトレーニングボリュームは低く、実行するエクササイズは2つしかないため(膝伸展とレッグプレス)、筋力トレーニングとバイブレーショントレーニングの両方でより多くのエクササイズを行うと、筋力トレーニングがより有利であると見られることを考慮する必要があるかもしれません。

WBVトレーニングにおける、女性の柔軟性、膝屈筋の筋力、およびハムストリングス対大腿四頭筋の強度比の改善の研究

【目的】
バイブレーションを使用した短期(≤2か月)のWBVTプログラムの影響を調査した。ハムストリングスと大腿四頭筋の比率(ECCKF / CONKE)、柔軟性、および垂直ジャンプパフォーマンス(VJ)、さらに、WBVT後21日間のパフォーマンス向上の保持を調査した。
【方法】
26人の中程度に活動的な女性(20.40±0.27歳)をバイブレーション(VG)または対照群(CG)に割り当てた。短期WBVTプログラムは、左右に振動するバイブレーションプラットフォームでの2セット5分の16セッションで構成された。全ての測定はWBVTの介入前、介入終了の2日後、および21日後に測定した。
【結果】
対照群と比較して、介入終了の2日後のバイブレーショントレーニングが柔軟性、等速収縮力と等尺性収縮力のピーク、および、ハムストリングのエキセントリック収縮と大腿四頭筋のコンセントリック収縮の比に大きな改善があることを明らかにした。逆に、垂直ジャンプの改善はなかった。WBVT介入終了の21日後では、介入前の値と大幅にことなった結果にはならなかった。
【結論】
短期の左右振動のWBVTプログラムは、柔軟性、膝屈筋の筋力、および適度に活動的な女性の「機能的な」ハムストリングス対大腿四頭筋比を改善した。著者らは、このタイプのトレーニングを、膝関節の筋バランスの改善するための効果的なトレーニングとして示した。

これらの研究から、短期的な結果であればWBVトレーニングには効果があることは明確になりました。ただし、1つ目の研究と同じように、普段トレーニングを受けていない女性を対象にしていることに注意を払う必要があります。

次に紹介する研究では、スプリントトレーニングを受けたアスリートを対象にしていますので、十分トレーニングを受けたアスリートに対してはどのような影響が出るのかがわかります。

スプリントトレーニングを受けたアスリートの筋力とスプリントパフォーマンスに対するWBVトレーニングの影響の研究

【目的】
スプリントトレーニングを受けたアスリートの従来のトレーニングにWBVトレーニングを追加することでスピード強度のパフォーマンスが向上するかどうかを調査する。
【方法】
20名のスプリンターのサンプルを2つのグループ(コントロールグループとバイブレーショントレーニンググループ)に分けた。どちらのグループも通常のトレーニングプログラムを実施し、バイブレーショントレーニンググループはこのタイプのエクササイズを週に3回追加した。
【結果】
等尺性および動的膝伸筋と膝屈筋力は、WBV群と対照群では違いがなかった。同様に、膝伸展速度とスプリントの速度にも違いはなかった。つまり、バイブレーショントレーニングは爆発力の向上に効果が見られなかった。
【結論】
トレーニングを受けていない被験者で観察されたプラスの効果がアスリートで記録できなかったという事実を強調した。

以上のことから、普段からトレーニングを受けているアスリートのような方にはあまり効果が見られないことがわかりました。
前回の研究と今回の研究から分かるように、普段トレーニングを受けていない被験者とトレーニングを受けている被験者では違った結果を生み出したことはとても興味深いところです。

バスケットボール選手の身体能力に対するWBVトレーニング効果の研究

【目的】
従来のバスケットボール選手のトレーニングに追加された4週間のWBVトレーニングの影響を調査する。
【方法】
18名のバスケットボール選手をサンプルに使い、バイブレーショントレーニングを4週間実行する研究を実施しました(40Hzで4mmの変位を伴う20分週3回のセッション)。全ての被験者は従来のバスケットボールトレーニングプログラムを維持した。テストは4週間前後に実行され、筋力、垂直ジャンプ、10メートルスプリントを測定した。
【結果】
筋力アップとスクワットジャンプの点でバイブレーショントレーニンググループに有利な有意差を示してたが、反動ジャンプ、ドロップジャンプ、30秒間の連続ジャンプ、または10メートルのスプリントにはそのような影響はなかった。
【結論】
プレシーズン中のバスケットボール選手の従来のトレーニングに追加された4週間のWBVトレーニングプログラムが、膝伸筋の筋力とわずかなスクワットジャンプのパフォーマンスを高める効果的な短期刺激であることを示した。

スクワットジャンプの特定の改善は爆発力の増加を示すのに十分ではなく、バスケットボールの実際の動きに近い、他の爆発力を測定するテストでの改善が見られなかったことをこの研究では考慮する必要があります。

女子バスケットボール選手の力の生成に及ぼすWBVトレーニングの影響の研究

Fernandez-Rio、Terrados、Fernandez-Garcia and Suman(2010)らの調査結果(この場合はバスケットボール選手)は、筋力アップと爆発的アクションに関して。WBVトレーニングなしで同じトレーニングを行ったコントロールグループと比較して、14週間のトレーニング(週に2回のセッション)の後の測定時にWBVトレーニングのポジティブな効果が見られませんでした。この介入で彼らが行ったエクササイズ(half squat, half squat with bodily weight on the toes, and standing plantar flexion, known as”calves”)は、バイブレーションの効果を観察するには不十分だった可能性が高いことに注意することが重要です。

異なる周波数と振幅を使用して、WBVがジャンプパフォーマンスとボディバランスに及ぼす長期的な影響の研究

Chen、Liu、Chuang、Chung and Shiang(2014)らは、8週間のバイブレーショントレーニングプログラムがジャンプ能力、筋活動およびバランスに及ぼす影響を調査しました。若年成人50名で、高周波グループと低周波グループ、コントロールグループに分けられ、1週間に3回、60秒のスクワット運動を実行しました。得られた結果の中で、WBVはさまざまな要素がジャンプのパフォーマンスとバランスの改善につながったことを示しましたが、異なるトレーニングの設定により違った結果が起こる可能性があることを示唆しています。

まとめ

バイブレーショントレーニングの長期的な効果のまとめ
  • 普段フィットネスなどのトレーニングを受けていない方であれば、WBVトレーニングは、筋力、柔軟性、ジャンプパフォーマンスの向上に効果があることが考えられます。
  • 普段トレーニングをしているアスリートであれば、筋力とスクワットジャンプの改善を示した研究はありますが、スポーツパフォーマンスの改善に繋がることは難しいと考えられます。
  • WBVを併用したエクササイズのタイプによって、効果の違いが見られる可能性があることをいくつかの研究で示唆されており、現時点でこのことについてはさらなる研究が必要であります。

このトピック全体で言及された研究で得られたデータの結果として、スポーツのトレーニングだけでなく回復にもWBVトレーニングの使用を考慮する必要があります。また、普段トレーニングをしているアスリートはWBVによって大幅な改善を得ることが難しいことが予想されます。このアスリート集団では、WBVトレーニングを単に適用するだけではあまり効果がないことを考慮する必要がありますが、バイブレーションプラットフォームで実行する動作の種類によっては効果的に行うことができるかもしれないことも考えられます。

しかし、これらのことは特定の母集団間で違いが生じる可能性があり、実際には専門文献で最も研究されていないトピックであるため研究結果から理解することが今のところ難しいことでもあるのが今の現状になります。

引用文献

1)Delecluse, C., Roelants, M. and Verschueren, S. (2003). Strength increase after whole-body vibration compared with resistance training. Med Sci Sports Exerc. US(6), 1033-1041.

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4)Colson, S.S., Pensini, M„ Espinosa, J„ Ga randes, F. and Legros, P.(2010). Whole-body vibration training effects on the physical performance of basketball players. J Strength Cond Res. 24(4), 999-1006.

5)Fernandez-Rio, 3., Terrados, N., Fernandez-Garcia, B. and Suman, O.E. (2010). Effects of vibration training on force production in female basketball players. J Strength Cond Res. 24(5), 1573-1380.

6)Chen, C.H., Liu, C., Chuang, L.R., Chung, P.H. and Shiang, T.Y. (2014). Chronic effects of whole-body vibration on jumping performance and body balance using different frequencies and amplitudes with identical acceleration load. Sci Med Sport. 17(1), 107-112.