#85 全身バイブレーショントレーニング(WBV)と怪我の予防に関する論文レビュー
今回は、バイブレーショントレーニングについて論文を用いて、どのような効果があるのかそして、怪我の予防にどのように役立つのかをみていきたいと思います。
以前、電気刺激とトレーニングについての論文レビューを書いた記事もあるのでよかったら読んでみてください。
スポーツパフォーマンスにおけるトレーニング時の電気刺激の使用の効果【研究レビュー】
今回は、前回の『トレーニングと電気刺激の併用による効果と実際【研究レビュー】』で明らかになったことを踏まえて、さらにいくつかの論文を用いて、スポーツパフォーマンスにおけるトレーニング時の電気刺激の使用の効果について見ていきたいと思います。
目次
- バイブレーションプラットフォームの実際
- 全身バイブレーショントレーニング(WBV)と怪我の予防に関する論文
・4週間のWBVトレーニング後の神経筋の足首関節の安定化の研究
・慢性的な足関節の不安定性を持つアスリートに対する不安定な表面を使用したWBVトレーニングの研究
・十字靭帯再建後のアスリートの筋力に関するWBVトレーニングの効果の研究 - まとめ
1.バイブレーションプラットフォームの実際
何年もの間、バイブレーションプラットフォームは怪我の回復とスポーツトレーニングで重要な役割を果たしてきたと考えられています。このタイプのトレーニングによって引き起こされる短期的なメカニズムと、継続的なトレーニングがもたらす長期的な影響を理解する必要があります。全身バイブレーショントレーニング(以下:WBV)の使用を正当化する説明の中で、Fagnani、Giombini、Di Cesare、Pigozzi and Di Salvo(2006)らは、神経筋紡錘の刺激とアルファ運動ニューロンによる筋線維の活性化、そして一次求心性線維を介した神経信号の介入含む緊張性振動反射の存在を紹介しています。
2.全身バイブレーショントレーニング(WBV)と怪我の予防に関する論文
今回はこのWBVトレーニングの役割と怪我の予防に関する研究論文を紹介していきます。
4週間のWBVトレーニング後の神経筋の足首関節の安定化の研究
4週間のWBVトレーニングが、腓骨筋および前脛骨筋の反射活動と足首内反における損傷メカニズムへの反応に及ぼす影響を調査する。
【方法】
コントロールグループとWBVトレーニンググループに分けられた26名の活動的な若者を対象に実施された。プログラムは、週3回、3分のWBVトレーニング(30Hz、4mm振幅)で構成された。介入前後の反射活動を測定し、足関節の動きの持続時間を垂直方向の地面反力で計算した。
【結果】
4週間後のWBVトレーニング後、これらの筋の反射活動や反応速度に変化はなかった。
【結論】
WBVトレーニングは、足首内反の損傷メカニズムに対応した足首の安定性に効果的な結果をもたらさないことが示された。
以上のことから、4週間のWBVトレーニングが、腓骨筋および前脛骨筋の反射活動と足首内反における損傷メカニズムへの反応に及ぼす影響について、トレーニング効果が出なかったことを示しました。
プラットフォームを使用したWBVトレーニングでのこの研究では、膝を30°に曲げた状態で両脚の位置を保持する必要があったことから、この条件下では効果がなかったことを示唆する必要があるかもしれません。また、健常者を対象にしている点も考慮する必要があります。
次の研究では、足関節に問題のあるアスリートを対象にしたWBVトレーニングの研究を紹介します。
慢性的な足関節の不安定性を持つアスリートに対する不安定な表面を使用したWBVトレーニングの研究
6週間のWBVトレーニングプログラムの効果を評価する。
【方法】
慢性的な足関節の不安定性をもったアマチュアアスリート50名を使用した。コントロールグループと不安定な表面の上でのバイブレーショントレーニンググループ、そして振動のない不安定な表面でのトレーニンググループの3つのグループで形成された(BOSU Balance Trainerを使用)。このBOSU Balance Trainerで片側のバランスtレーニングを週3回、6週間行った。
【結果】
バイブレーションを使用しなかった2つのグループでは短腓骨筋、長腓骨筋、前脛骨筋の反応時間の改善がみられませんでしたが、バイブレーションを使用したグループでは、これらの筋の反応時間の改善を示したため、バイブレーショントレーニングの有益な効果を観察した。
【結論】
慢性的な足関節の不安定性をもった方へのバイブレーションプラットフォームの使用を推奨する。
この研究では、BOSU Balance Trainerを使用したため通常のWBVよりも振動が減少した可能性があることが述べられています。
しかしそれにも関わらず、この研究の結論として”慢性的な足関節の不安定性をもった方へのバイブレーションプラットフォームの使用を推奨する”と言うことでした。
この記事の一つ目の研究と違った結果が出たことについては、この研究は健常者対象ではなく慢性的な足関節の問題を持っているアスリート対象であったため、おそらくこのWBVトレーニングの効果として神経が正常に働いていない筋肉に対してそれを正常化し、神経単位での改善がある可能性があることが考えられます。
この同じ特性のサンプルグループを使用しての後続の研究では、WBVトレーニングだけが、Biodex Balance Systemの改善を示しましたが、SEBTの結果に大差はなく振動の有無は関係ないと結論づけています。
そのためこの2つの研究から、WBVトレーニングが慢性的な足関節を持った方に効果的かどうかは断言できないことがわかります。しかし、この1つ目の研究でバイブレーションプラットフォームの使用を推奨するという結論を出し、2つ目の研究ではWBVトレーニングだけが、Biodex Balance Systemの改善を示したこともあり、 WBVトレーニングには何かしらのプラス効果はあることの可能性はあります。
次に十字靭帯再建術後のアスリートの筋力に関するWBVトレーニングの効果の研究について紹介していきます。
十字靭帯再建術後のアスリートの筋力に関するWBVトレーニングの効果の研究
8週間のWBVトレーニングプログラムが、ACL再建術後のアスリートの膝の屈曲/伸展筋力の回復を改善するかどうかを評価する。
【方法】
コントロールグループと介入グループに分けられた38名のバレーボール選手とバスケットボール選手のサンプルを使用した。両方のグループは同じ回復プログラムに参加し、さらに介入グループはバイブレーションプラットフォームによる膝関節屈筋と伸筋の静的エクササイズを行った。筋力は等速ダイナモメーターを使用して評価された。
【結果】
改善は両方のグループで得られましたが、介入グループの結果は対照グループと比較して有意に大きくなった。
【結論】
バイブレーションプラットフォームは、ACL再建術を受けた被験者の筋力回復に役立つツールである可能性がある。
著者らは、この結果を生んだ理由として、モーターユニットのより多くの介入によって神経筋の効率を改善する神経レベルでの潜在的な適応であることを言及しています。これらの研究の結果に基づくと、WBVトレーニングは、さまざまな種類の怪我のある被験者に効果的な結果をもたらす可能性があるようです。
3.まとめ
- 健常者対象にした足関節の研究では、筋の反射活動や反応速度の改善のためのWBVトレーニングの効果は現れませんでした。
- 慢性的な足関節の不安定性をもったアマチュアアスリートの2つの研究からは、異なった結果と結論を示したが、WBVトレーニングの効果がある可能性を見つけることができます。
- 十字靭帯再建術後のアスリートを対象にした研究では、WBVトレーニングは有効であることを示しました。この研究結果から、さまざまな怪我の回復のために効果的な結果が現れる可能性があることを示しています。
以上の研究結果から異なった結果が現れたことを考慮した上で、これらのトレーニングプログラムを組み入れるには、さらに短期レベルと長期レベルの両方で発生するWBVトレーニンングの影響を理解する必要があると考えられます。
引用文献
1)Fagnani, F., Giombini, A., Di Cesare, A., Pigozzi, F. and Di Salvo, V. (2006). The effects of a whole-body vibration program on muscle performance and flexibility in female athletes. dm J Phys Med Rehabil. 85 (12), 956-62. 2)Melnyk, M., Schloz, C., Schmitt, S. and Gollhofer, A. (2009). Neuromuscular ankle joint stabilization after 4-weeks WBV training. Int J Sports Med. S0(6), 461—466. 3)Sierra-Guzmân, R., 3iménez, 3.F., Ramfrez, C., Esteban, P. y Abiân-Vicén, 3. (2017). Effects of Synchronous whole-body Vibration Training on a Soft, Unstable Surface in Athletes with Chronic Ankle Instability. Int J Sports Med. 58(6), 447-455. 4)Sierra-Guzmân, R., 3iménez-Diaz, F., Ramfrez, C., Esteban, P., Abidjan-Vicén, 3 (2018). Whole-Body-Vibration Training and Balance in Recreational Athletes with Chronic Ankle Instability. Athl Train. SP(4), 355-565. 5)Costantino, C., Bertuletti, S. and Romiti, D. (2018). Efficacy of Whole-Body Vibration Board Training on Strength in Athletes After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: A Randomized Controlled Study. Clin J Sport Med. 28(4), 339-549.