#147 科学的根拠に基づいたGMO食品に対する賛否
ALL CONDITIONING DIET/ NUTRITION
前回の記事では、GMO作物とは何か、そしてどのような食品に含まれているのかを書かせていただきました。
GMO作物って何? どんな食品に含まれてるの?
最近では、食品の安全性と健康について疑問視されていることが言われることがあります。実際に、砂糖や添加物、農薬などの問題は健康被害としてある問題でもあります。特に日本は、他の国よりも添加物や農薬の規制が緩く、見た目や保存期間を伸ばすために色々と工夫された加工食品が多く存在します。
本記事では、前回の記事よりさらに突っ込んだ、科学的根拠に基づいたGMO食品の賛否について書かせていただきます。
目的
- GMO食品の利点
- GMO食品の安全性に対する懸念
- GMO食品を特定する方法
- まとめ
GMO食品の利点
GMO食品は、生産者と消費者の両方にとっての利点がある可能性があります。
多くのGMO作物は、害虫や昆虫から作物を保護するために遺伝子組み換え操作をされています。たとえば、Bt遺伝子は通常、トウモロコシ、綿花、大豆などの作物に遺伝子操作されています。この遺伝子は、いくつかの害虫や昆虫に有毒なタンパク質を生成し、害虫や昆虫が寄って来ないようにします。そのため、生産者は人体にとって有害な農薬をGMO作物に使用してする必要が少なくなります。実際、2014年の147の研究の分析では、GMO技術によって農薬の使用が37%減少し、収穫量が22%増加したことが示されています。
他のGMO作物は、天候の影響による作物の成長の妨げに対抗するために役立つように遺伝子操作されており、安定的に農家が作物を収穫できるようになっています。このことにより、農家だけでなく、作物がスーパーに並んだ時の作物のコストを下げることを可能にし、手軽なコストで買えるようになっています。
別の利点として、遺伝子組み換え操作は食品の栄養価を高められるとされています。たとえば、ゴールデンライスとも呼ばれるベータカロチンを多く含む米は、ビタミンAが慢性的に不足している地域で、失明を防ぐために開発されましたGMO食品です。
さらに、遺伝子組み換え操作は、茶色に変色しないリンゴなど、食品の風味と外観を向上させるためにも役立てることができます。そして、現時点での研究で、GMO食品は安全に摂取できることが示唆されています。
GMO食品の安全性に対する懸念
現在の研究では、GMO食品は安全であることが示唆されていますが、長期的に考えた場合の身体への安全性と環境への影響についてのいくつかの懸念があります。
アレルギー
GMO食品はアレルギー反応を引き起こすかもしれないという懸念があることが言われています。GMO食品には外来遺伝子が含まれているため、アレルギー反応を引き起こす可能性のあるとされています。
1990年代半ばの研究では、ブラジルナッツのタンパク質をGMO大豆に加えると、ブラジルナッツにもともと敏感な人々にアレルギー反応を引き起こす可能性があることを報告しています。このことが発見された後、すぐさまにこのGMO大豆を廃止したという歴史があります。
アレルギーに対しての懸念は考えられますが、現時点において市場に出ているGMO食品に対するアレルギー反応の報告はありません。
癌
GMO食品が癌の進行を促進する可能性があるという懸念があります。癌はDNAの突然変異によって引き起こされるため、遺伝子が操作された食品を食べるとDNAに影響が出るのではないかと考えられています。
この懸念に対しては、ある研究でマウスにGMO食品を摂取させ、腫瘍と早期死亡のリスク高まる可能性があることが示唆されています。しかし、この研究後、実験内容が不十分であったとされ、論文は撤回されています。
現在においても、GMO食品の摂取が癌の発生リスクを高める可能性があるとされる人を対象にした研究はありません。アメリカ癌協会(ACS)は、GMO食品の摂取が癌のリスクの増加または減少に関係がある証拠はないと述べています。しかしながら、長期的に行った人間に対しての研究は一向に存在しません。実際のGMO食品の体への影響を知るためには、長期的に行う人間に対しての研究が必要になります。
環境およびその他の健康
GMO作物は農家の人にとっては、安定的な収穫をすることが可能になるので利点が大きいですが、環境への問題が懸念されています。
ほとんどのGMO作物は、ラウンドアップなどの除草剤に耐性があります。これはどういう意味かというと、農家が自分の作物に害を及ぼすことを恐れずにラウンドアップを使用することができるということです。そして、多くの雑草はラウンドアップなどの除草剤に対する耐性を時間とともにつけており、より多くの除草剤を使わなければ、雑草を殺すことができなくなっています。そのため、GMO作物を育てる農家はこれらの2つの理由からラウンドアップなどの除草剤を大量に使うようになってきています。
ラウンドアップとその有効成分であるグリホサートは、動物に対する研究によってさまざまな病気のリスクを高める可能性があることを報告しており、問題視されています。一方で、複数の研究のレビューは、GMO食品に存在する少量のグリホサートを人間が摂取しても安全であるという反対の結論付けをしています。
GMO作物は、農薬の使用を減らすことができる利点もありますが、除草剤の使用が増えることでの環境や健康被害の心配もあるため、この議論を解決するためには、人間を対象にした長期的な研究が必要になります。
GMO食品を特定する方法
GMO食品は安全であるとうたっている団体は多く存在しますが、実際のところGMOに対する長期的な研究が少なく、どうなのかわからないのが現状です。そのため、できればGMO食品は避けたいという人もいると思います。しかし、スーパーマーケットに売られているほとんどの加工食品はGMO作物の原料で作られているため、避けることはなかなか難しいです。
日本のGMOの表示義務の対象となるのは、大豆、トウモロコシ、ばれいしょ、菜種、綿実、アルファルファ、てん菜の7つの農作物です。そして、海外から輸入しているGMO作物は、トウモロコシ、大豆、菜種、綿実の4つになります。この中でもトウモロコシは、様々な食品名や原材料に加工されており、加工されれば、『遺伝子組み換え食品』という表示義務がなくなります。実際にGMOのトウモロコシは、飼料やコンフレーク、コーン油、そしてコーンスターチなどに使用されます。
さらにコーンスターチは、
お菓子などに使われる “水あめ”
かまぼこなどの加工品に使われる “ブドウ糖”
お酒やドレッシングに使われる “アルコールや酢”
だしの素やカップラーメンに使われる “アミノ酸”
お茶やコーンスープなどに使われる “デキストリン”
などの原材料として使用されます。
GMO大豆も醤油や油に加工される場合は表示義務がありません。さらに加工食品の全体の5%以下のGMO含有量であれば、これも表示義務がありません。
このようなことを理解すると、知らず知らずのうちにGMO食品を口にしていることがわかると思います。
実際にGMO食品を避けられないじゃないかと思うかもしれませんが、唯一避ける方法としてあるのが、100%のオーガニック食品を選ぶことです。もしくは、信頼できる農家や製造元から直接食品を買うことが必要になります。
ヨーロッパでは、GMO成分が0.9%を超える食品には、「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換えから製造されたもの」と記載する必要があります。包装されていない食品に関しても、棚など、商品の近くに記載する必要があるとされています。
ヨーロッパの表示義務を知ると、日本はどれだけ評議義務がゆるいのかということがわかると思います。
まとめ
- GMO食品は、農家にとって栽培するのが簡単で費用もかからないため、消費者にとっても安価になります。 またGMO操作は、食品の栄養素、風味、外観を向上させる可能性もあります。
- GMOに関する主な懸念は、アレルギー、癌、および環境問題に関するものです。現在の研究ではリスクはほとんどないと示唆されていますが、より長期的な研究が必要です。
- 日本において、GMOが含まれている食品の表示義務に規制がゆるいため、どの食品にGMOが含まれているのか特定することは難しいです。そのため、GMO食品を避けたい場合は、100%のオーガニック食品を選ぶか、信頼できる農家や製造元から買うことが必要になります。
GMOは、遺伝子組み換え技術を使用して改良された食品ですが、実際のところ環境そして、健康被害にどのような影響を与えるのかについてはわかっていないことでもあります。
多くのGMO食品を勧めたい団体の出した見解としては、当然ながら何もリスクがない食品であるとされてはいますが、個人的には、100%安全であると言い切れる根拠はないと思っています。
このようなことは議論されることでもありますが、自分の体の健康は自己責任でもあるので、自分の信じたことを元に食品を選んでみてください。
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