#140 ハムストリングスの怪我・再発を予防するために知っておくべきこと

ALL REHABILITATION THERAPIST

ハムストリングスは太腿の後ろにある筋肉で、歩行、しゃがむ、膝を曲げる、骨盤を傾ける際の腰と膝の動きに関係します。

ハムストリングスの損傷はは、スポーツで起こるのが最も一般的です。このハムストリングの怪我はスポーツ復帰するまでの時間が長く、再発する可能性もある厄介な怪我でもあります。ですが、的確なリハビリや予防法をすることでハムストリングスの怪我や再発をできるかぎる防ぐことが可能だと考えています。

本記事では、まずハムストリングスの基本的な解剖を知ってもらい、その後、怪我の発生機序について、そして、一番大切なハムストリングスの怪我・再発の予防するための知識について紹介していきます。

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目次

  • ハムストリングスの基本的な解剖
  • ハムストリングスの怪我の発生機序
  • ハムストリングスの怪我・再発を予防するための知識
  • まとめ

ハムストリングスの基本的な解剖

ハムストリングスの基本的な解剖
ハムストリングスは上の図のように以下の3つの筋肉によって構成されています。

・大腿二頭筋(長頭・短頭)
・半膜様筋
・半腱様筋

大腿二頭筋

膝を屈曲方向に曲げたり、外旋方向に回したりする作用があります。また、股関節を伸展方向に曲げることや、遠心性収縮によって股関節から折れ曲がるようにお辞儀する時に作用もします。大腿二頭筋は、太腿の外側に位置し、お尻の下から始まり膝までのびています。

大腿二頭筋には長頭と短頭の二つの線維があり、長頭は坐骨結節から、そして短頭は大腿骨中部後から腓骨頭と脛骨外惻顆まで付着しています。

神経支配は、長頭が坐骨神経の脛骨神経、短頭が坐骨神経の総腓骨神経(L5〜S1-2)です。

半膜様筋

半膜様筋は膝を内旋方向に回す作用以外、大腿二頭筋と同様の働きをします。半膜様筋は、太腿の内側そして半腱様筋よりも深部に位置し、お尻の下から始ま脛骨までのびています。ハムストリングスの中で一番大きい筋肉です。

神経支配は、坐骨神経の脛骨神経(L5〜S1-2)です。

半腱様筋

半腱様筋は、半膜様筋と同様の作用で、半膜様筋よりも外側、そして大腿二頭筋に近い位置にあり、お尻の下から始ま脛骨までのびています。ハムストリングスの中で最も長い筋肉で、名前の通り、半腱様筋は、半分が腱の繊維でできています。そして、ハムストリングスの中でも速筋繊維が多いと言われています。

神経支配は、坐骨神経の脛骨神経(L5〜S1-2)です。

ハムストリングスの怪我の発生機序

ハムストリング損傷は、ハムストリングスに対しての過負荷、伸長ストレスによって起こるとされています。そして、スポーツにおいてはスプリントのような動作でハムストリングスの損傷が引き起こされると言われています。サッカーや陸上競技、ラグビーなどのスプリントを伴うスポーツでは、ハムストリングスの中でも大腿二頭筋長頭を損傷しやすとされています。この原因が明らかにされていませんが、おそらくハムストリングスの中でより大きな力を発揮するためだと考えられています。

また、別の怪我の発生機序として、ダンスやキック動作などでも起こるとされており、極端な股関節屈曲と膝伸展の複合的な動きにより、半膜様筋を損傷しやすいとされています。

損傷の程度は、軽度から重度まであり、突然一過性の負荷でハムストリングスを損傷することもあります。

損傷の程度は、軽症であれば一般的には休息やマッサージ、鎮痛剤などにより治療されます。また、ハムストリングスの症状が続く場合やスポーツ選手の場合は、医師にもとでしっかりと画像での診断をしてもらう必要があります。画像診断は主に、エコーとMRIで行われます。

再発を防ぐためには、スポーツやその他の活動に戻る前にしっかりとしたリハビリが必要です。ある研究によると、ハムストリング損傷の再発率は12〜33%とされています。

ハムストリングスの損傷程度は、伸長または断裂によって3つのグレードで分類されます。

グレード1:最小限の筋肉損傷
グレード2:部分的な筋肉の断裂、痛みと一部の機能障害
グレード3:完全な組織の断裂、痛みと機能障害

コンタクトスポーツで、ハムストリングスに対して直接外力が加わると打撲のような挫傷が発生します。ハムストリングスの挫傷の特徴は次のとおりです。

・痛み
・腫れ
・こわばり
・可動域の制限

ハムストリングスの怪我・再発の予防

ハムストリングスの損傷率が高いことから、ハムストリングスの怪我や再発を防ぐためにどうすればいいのかということの研究が多くされています。

ある研究のレビューでは、怪我の予防のためにスポーツや激しい運動の前に、ハムストリングスをよく伸ばすこと(ストレッチすること)を勧めします。また、ハムストリングスを強化することも怪我の予防につながると言われています。特にノルディックハムストリングなどで、エキセントリックでの筋肉の強化や神経筋制御に重点を置くことが大切であるとされています。つまり、ハムストリングスに柔軟性であり、強い強度に耐えられるとハムストリングスの怪我の予防つながるということです。

しかし、個人的な意見としてこれらの結論は、半分あっていて半分間違っていると考えています。

その理由について以下に解説します。

ハムストリングスの柔軟性を向上させるためには

ハムストリングスの柔軟性を上げることが、怪我の予防につながるということは賛成ですが、直接ハムストリングスに対してストレッチをしていくことは怪我の予防につながらないと考えています。これはどうしてかというと、ハムストリングスの柔軟性が低下している理由がハムストリングス自体にないからです。そのため、いくらハムストリングスをストレッチしてもハムストリングスの筋緊張は取れず、場合によってはハムストリングスの収縮力を低下させてしまいます。また、ハムストリングスの損傷後の場合は、筋肉の再生を妨げる可能性があるため、過度のストレッチを行わないことがとても重要です。

ハムストリングスの柔軟性の低下が起きる主な原因としては、腿の前の大腿四頭筋と体幹の深部にある腸腰筋(大腰筋と腸骨筋)の機能不全もしくは柔軟性の低下が挙げられます。この2つの筋肉はハムストリングスの拮抗筋でもあり、お互いに蜜に影響し合っている筋肉になります。

また、別の原因としては、足関節(特に背屈)、股関節(特に屈曲・内旋)、胸椎(全可動域)の関節可動域の低下が挙げられます。これらの関節の可動域が低下してしまうと、中心に近い深部筋群がうまく機能しなくなります。そして、代償としてハムストリングスをより使った体の動かし方になっていまい、ハムストリングスに対してのオーバーロード(過負荷)で、怪我をしてしまいます。

ハムストリングスを強化するだけではいけない

ハムストリングスを強化することは重要ではありますが、怪我をする根本的な原因は、ハムストリングスが弱いからというよりもハムストリングス以外の筋肉がうまく使えていないからということの方が正確な表現であると考えています。

うまく使えていない筋肉は、主に内転筋と大臀筋、そして、腸骨筋になります。(ある特定の角度での)内転筋と大臀筋は、股関節の伸展作用があり、ハムストリングスとともに働きます。しかし、この2つの筋肉は、体の使い方がうまくないと筋機能の低下を起こしやすい筋肉でもあります。そして、この2つの筋肉が機能しないとハムストリングスに依存する割合が増えてしまい、オーバーロード(過負荷)で怪我をしてしまいます。

腸腰筋は股関節の屈曲作用がありますが、腸腰筋がうまく使えていないと大腿直筋や大腿筋膜張筋で股関節屈曲の代償を行い、骨盤の前傾を強めてしまいます。そうすると、ハムストリングスが遠心性収縮で骨盤の前傾の動きを制御する方向に働きます。そして、ハムストリングスの筋緊張が増え、最終的にハムストリングスの筋機能不全を起こしてしまいます。この状態で、ハムストリングスを使った股関節の伸展動作をしてしまうと、ハムストリングスがその運動強度に耐えられなく、怪我をしてしまいます。反対に、腸腰筋がうまく使えているのであれば、ハムストリングスは適度な筋緊張をキープしたまま機能できるので、最大限に収縮することが可能になります。

まとめ

ハムストリングスの怪我
スポーツを行っている人であれば、ハムストリングスの不快感や痛みを経験することは一度はあるかもしれません。そのくらい、発生頻度が高い怪我でもあり、再発も多く厄介な怪我でもあります。ですが、適切な予防のためのトレーニンングを行っていれば、ハムストリングスの損傷をある程度は回避することができます。

運動の負荷量や体の使い方、身体構造の強化、柔軟性などさまざまな要素を念頭に入れ、適切な予防トレーニングを心がけてみてください。

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