#107 専門理学療法士が増えることへの感じる違和感
先ほど、このようなツイートをしました。
専門理学療法士の増加
オランダでは手を専門的に診る理学療法士や骨盤に特化した理学療法士など専門理学療法士が増えてきています
システム的な部分ではメリットは多いとは思うのですが、肝心の治療に関しては局所アプローチになってしまうため、慢性的な症状に対しては対応が難しいと考えています
— 桑原秀和(Hide. Kuwabara)🇳🇱🇧🇪 (@HiddeKuwabara) June 14, 2021
最近ではさまざまな分野で専門家の人たちが増え活躍されています。しかし、理学療法士(セラピスト)の治療分野においては専門家ができて専門理学療法士として働いている人が増えることについて違和感を感じることがあります。
オランダではその理学療法士が実際に専門家に分かれて働き始めています。オランダに住んでいたためオランダの理学療法士について話を聞くことが多いのですが、オランダでは最近、手の関節だけを専門にした理学療法士や骨盤だけを診る専門の理学療法士など、様々な患者さんの症状を振り分けてその部位ごとの専門家たちが治療するようになっています。こうした事は西洋文化的な考えであれば当然のことではあるのかもしれません。仕事を分業化して専門家を作ることでメリットは出てきますが、反対にデメリットもでてくると私は考えています。
特に治療分野において、このように体の部位ごとに専門家を作ることについて疑問に思うことがあります。人間の体は様々なところでお互いに連絡をし合っていて影響を受けています。そのため体の部位ごとに専門家を作ってしまうと、部位ごとに影響し合っている事を理解することができません。また、各体の部位のつながりを知ることで、体を治すため方針として役立つことがたくさんあります。そのため、治療分野において専門家を作ることは理学療法士が患者さんに対して的確なアドバイスができなくなってしまう恐れがあると考えています。
ここではそういったことを踏まえて自分の聞いた話であったり実体験をもとに専門家を作ることについてより突っ込んだ疑問点についてお話しさせていただきます。
目次
- 専門家を作ることでのメリット
- 専門家を作ることでのデメリット
- 身体を診る上で大切なこと
- 最後に
専門家を作ることでのメリット
治療分野において専門家を作ることのメリットを先にお話しさせていただきたいと思います。さきほどもお話しした通りオランダにおいては理学療法士の学校を卒業した後に、専門家になるための大学院があります。そして、大学院を卒業した後は、その勉強した専門分野を生かした治療院で働き始めます。そうすることで、理学療法士にかかりたいと思う患者さんにとっては自分がどこに行って治療して貰えばいいのかわかりやすく、そして自分の症状に熟知した専門家に見てもらえるという安心感をもてるメリットがあります。また、初めは普通の理学療法士のところに行って、よくならなければ専門の理学療法士に紹介してもらうということもできます。
ドクターに関してもこれと同じように初めに病気や怪我をしたときにはハウスドクターと言って地域のかかりつけ医みたいなところにまず受診をします。そのドクターがあなたの病気や怪我の状態を見て、どの専門のドクターに紹介するのか、もしくは理学療法が必要なのかなどを判断します。つまり、このハウスドクターが相談役となって専門家が必要な場合は紹介するという形になります。
こうした医療システムは、効率を考えた場合には非常によく、ドクターや理学療法士とっても働きやすい環境になることは間違いないと思います。患者さんにもその症状や怪我に合った専門家に診てもらうことで的確にアドバイスをもらい治療をすることができます。こういったシステムによって患者さんは自分がどの専門家に見てもらえばいいのかと言うことを迷わずにシステム通りに専門家へ受診することが可能になります。そして、その専門家の中でもし解決できない場合は別の専門家に受け渡し原因を探していくことになります。そういった横のつながりがあるため通常の病気や怪我であればうまく治療をすることができます。
専門家を作ることでこういったシステム上のメリットがあり、シンプルにドクターや理学療法士を受診することができるようになります。
専門家を作ることでのデメリット
理学療法士として専門家を作ることでのデメリットとして考えられることは、患者さんの抱えている問題が解決できなかった場合に適切な治療ができなくなる可能性があることです。専門家たちはその専門通りにその身体の部位だけを診ることしかできません。例えば、手首の怪我であれば手の関節だけを診断し治療をしていきます。理学療法士として長く働いているとわかることなのですが、手首の症状であっても原因が肩から来るものであったり、首から来るものである場合もあります。またケースによっては胴体からくる歪みの原因で手首に症状が出たりする場合もあります。こういったケースの場合に専門家が手首だけを診て治療をしていてもなかなかその症状を治すことができません。
これは実際にあったことなのですが、手の使いすぎで腱鞘炎になってしまった人が手の専門家に行きました。その専門家のプロトコール通りに治療を進めましたがなかなかうまく症状が改善せずに最終的にドクターに相談して痛み止めの注射を受けていました。さらに、あまり手を使わないように固定器具で手を固定していました。その方とは会ったときにどのように治療してきたかを聞いてみただけなのですが、体の状態を視診で見てみると肩や首に緊張があり身体の歪みが胴体からあるようにも見えました。これは憶測でしかないのですが、手首だけの治療ではなく体のバランスを整えるためにも肩や首そして胴体もしかしたら股関節の治療もする必要があるのかもしれないとその時思いました。実際にその痛めている部分以外を治療して良くなることがよくある経験から言えることではあります。
こういった考えは専門家の人たちにはあまりなく、どちらかと言うと東洋的な考えでもあります。そして局所的に関節の症状を見ただけでは治らない症状に対してどうしてもこのような東洋的な考え方でアプローチすることが必要になってくると個人的には考えています。しかし専門家を作ることによってこのような東洋的な考えのアプローチをすることができなくなり、症状をうまく改善することができないことも増えていくと考えられます。
日本でもこのオランダと同じように理学療法士が何かの専門分野を勉強し専門理学療法士として臨床に活かそうという動きがあることを聞いたことがあります。システム上はメリットはありますが、実際の治療技術の質の低下というデメリットがあると思うので正直なところ、あまりよろしくはないかなとは思っています。
身体を診る上で大切なこと
以上のように理学療法士の専門家を作ることでのメリットとデメリットをお話ししてきました。もしかしたらこのような事は他の分野にも当てはまることかもしれません。
ここからは個人的に考えている身体を見る上で大切なことを書いていきます。
外傷や事故、命に関わる病気などの急性期においては西洋的な考えで救急処置をする必要があります。このような病気や怪我は西洋医療の強みでもあり命に関わるようなものに対しては絶対に必要な処置でもあります。しかし慢性的な病気や怪我に関しては西洋的な考えよりも東洋的な考えで体全体のバランスを把握して、なぜそこに症状が起きているのかどうしてそのような怪我をしてしまったのかを考えていく必要があります。
つまり、西洋的な考えでは急性的な症状に対して対処することができ、東洋的な考えでは慢性的な症状や病気、怪我に対して対処することができるということです。
理学療法士を含めた治療家で間違った考えを持ちがちなのが、西洋的なアプローチが好きな人でこの違いを理解できずその症状や怪我の局所部位に対してだけアプローチをしようとしてしまいます。これは西洋人の治療家に多い傾向です。応急処置であれば問題は無いのですが、慢性的な症状でなかなか治らないときには体全体を見てアプローチする方法をとる必要があります。逆に東洋的なアプローチが好きな人は急性期の怪我の時でも体全体のことを考えてアプローチしがちであり、その局所の状態を無視しがちです。これもこれで適切な治療ができているとは言えず、急性期にあった治療が必要になります。
わかりやすくするために、西洋的なアプローチと東洋的なアプローチとして2つに分けてお話ししてきましたが、実際の現場においてはこのようなアプローチを2つに分けて考えるわけではなく、症状やケースによって両方のアプローチを使ってその症状に対して対処していきます。
本来であれば体のことを理解していればこのように西洋的なアプローチと東洋的なアプローチと分ける必要は無いとは考えています。
最後に
理学療法士において、オランダ以外の情報はあまり知らないので比較することはできないですが、世界的な流れとして今回お伝えしたような専門家として働く理学療法士が増えてくるのではないかと思っています。
個人的には、人の身体は全体で考えた方が根本的な問題解決につながると思っていますので、このような考え方がより世界に広がっていって貰えばいいなと考えています。そのためにも多くの優秀な日本の治療家の人たちが世界に出て治療技術や考え方を広めていって欲しいなと密かに思っているところです。
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