#61 関節の可動域エクササイズの目的とパフォーマンスの関係性
スポーツやヨガなどのアクティビティをしている人であれば必ずやったことのある関節の可動域エクササイズですが、実際に関節の動きがよくなることで具体的にどのように体に影響するのかを理解されているでしょうか。
本記事では、関節の可動域エクササイズの目的とパフォーマンスの関係について話していきます。
目次
- 関節の可動域エクササイズの目的とパフォーマンスの関係性
・可動域エクササイズの目的とは
・関節の可動域とパフォーマンスの関係性 - 関節可動域のエクササイズをする時のポイント
・二関節筋よりも一関節筋を狙う
・胸郭の可動域が一番重要 - 人種・性別・年齢による可動域の違い
- まとめ
1.関節の可動域エクササイズの目的とパフォーマンスの関係性
可動域エクササイズの目的とは
関節可動域とは関節が動く範囲のことを意味します。通常の股関節の曲げる方向(屈曲方向)の関節可動域の限界は、125°、後ろに反らす(伸展方向)のは、15° のように関節ごとそして方向によって、正常関節可動域というのが決まっています。もちろん個人差はあるので、正常関節可動域以上に動く人もいれば、動かない人もいます。しかし、この可動域が動きすぎたり、動かなすぎたりすることで、怪我のリスクを高めたり、パフォーマンスに影響することがあります。
例えば怪我のリスクに関してですが、股関節の屈曲の可動域が少なくその関節の可動域以上の動きをしなければならない場合には、腰椎で代償します。その時に本来は安定させるために働く腰椎までも動きを作ってしまうため、腰痛を起こしたり、股関節自体に痛みを生じさせてしまったりします。また、関節の可動域が大きすぎる場合には、関節自体が緩いことも多く体に衝撃が加わった時に靭帯などの関節を安定させる組織を痛めてしまうリスクも高めてしまいます。
関節の可動域とパフォーマンスの関係性については以下に説明します。
関節の可動域とパフォーマンスの関係性
関節の可動域とパフォーマンスの関係性について、『長座体前屈テスト』は各スポーツのパフォーマンスとはあまり関係ない事がよく言われています。その理由として、実際の話でマラソンのトップアスリートのなかで上体を前に倒して床につかない選手がいたそうです。このことは走るという動作では、この長座体前屈テストは競技パフォーマンスには影響しないことを示しています。
それでは、具体的に関節可動域のどのような要素がパフォーマンスに影響するのかをみていきます。
中距離ランナーを成績の良さの違いで3つのグループに分けた研究では、成績が良いグループほど股関節の可動域(内・外転、屈曲、伸展)が大きい事が報告されています。同時にこのグループでは筋力レベルも高かったことから、幅広いスライドで力強く走る事ができた結果、成績が高かった事が容易に考えられます。
このように筋力もしっかりとある可動域のことを機能的な可動域と言われていて、当然ではありますがこの機能的な可動域が高い事がパフォーマンスにはとても重要であるとされています。
関節可動域のエクササイズをする時のポイント
二関節筋よりも一関節筋を狙う
上記でも出てきましたが、長座体前屈テストはパフォーマンスに関係なく、股関節の可動域はパフォーマンスに関係あります。これはどのような違いがあるかというと、長座体前屈は関節がスムーズに動くかどうかということを示すわけではないということです。
長座体前屈の場合、その動きの制限になるのは二関節筋であるハムストリングスと呼ばれる筋肉です。長座体前屈が得意な人は、関節可動域が高いわけではなく、筋肉の張力が少ないもしくは、筋肉自体が長くなっています。ハムストリングスのような二関節筋は体の動きを作るのにはとても重要ですが、ハムストリングスが柔らかいことは股関節自体の動きにあまり影響はありません。
そのため、関節可動域のエクササイズをするときは一関節筋と呼ばれる大臀筋や中臀筋、内転筋のように関節の周りについている筋を刺激する必要があります。そうすることで、一関節筋がバランス良く働き、股関節の機能的な可動域が向上します。その結果、スポーツのパフォーマンスにも影響するという事です。
胸郭の可動域が一番重要
上記では股関節の可動域がランナーのパフォーマンスに影響することを例にしてあげましたが、個人的に一番大切だと思う可動域として、胸郭の可動域が挙げられます。
胸郭の可動域は主に、肋骨、脊椎、肩甲骨とも関係していて、スポーツ動作における重心移動をスムーズにしてくれる働きがあります。また、胸郭がよく動くことで胴体の深部にある腸腰筋と呼ばれる筋肉がより働くようになるため、パフォーマンスも向上してきます。
腸腰筋に関しての記事は以下を読んでみてください。
腸腰筋ってどこでどんな作用?【特別な促通法も解説】
本記事では基本的な解剖学だけではなく、どのようにしたら腸腰筋をうまく使えるようになるのかということもお話しできればと思います。
また、腸腰筋のためのトレーニング方法について書いた記事もあるのでよかったら目を通してみてください。
アスリートがするべき腸腰筋のためのトレーニング法
腸腰筋を鍛えたいと思ったとしてもただ単に股関節の屈曲をトレーニングすれば良いわけではありません。アスリートがするべき腸腰筋のトレーニング法として、どのようにしてトレーニングをするべきかということを本記事では詳しく解説しています。
胸郭の可動域は制限されやすいところでもあり、不良姿勢や食生活の乱れ、ストレスなどからも影響を受けたりします。これは胸郭を構成している一つの胸椎という背骨の近くに自律神経が通っているため、内臓やメンタルの影響も受けるとされています。
そのため、現代社会では胸郭の可動性は制限されやすくより胸郭の関節可動域のエクササイズの重要性が求められています。
人種・性別・年齢による可動域の違い
想像しても分かりやすいと思いますが、関節可動域は年齢を重ねる事に低下して、男性よりも女性の方が関節が緩いため体が柔らかい傾向があります。
ヨルダン人とマレーシア人の人種の差での膝関節の緩さを比較した研究では、この人種間での違いを報告しています。この人種間では環境及び行動的要因も影響している事が挙げられています。ヨルダン人はマレーシア人と比べてストレスが多く喫煙率が高い傾向にあり、ビタミンDが少なかったと調査結果が出ています。さらにこの研究では膝の緩みは、慢性的な痛み持ちやすい可能性があることも示唆しています。
このような研究から、人種間でも環境及び行動的要因を含め関節の硬さ、緩さの違いが生まれる可能性があり、怪我のリスクも変わってくると考えられます。
個人的な経験からも寒い国のヨーロッパ系の人種では、関節が硬い傾向があり、スペインのような暖かい国のヨーロッパ系の人種では、関節が柔らかい傾向がある印象があります。また、アジア人の比較的関節が柔らかい傾向あり、DNAやその育った国の環境、その人の行動によって関節の硬さ、柔らかさが違ってくると思っています。
これらの研究での関節の硬さ・緩さの違いは一概に関節可動域が大きいこととは言える話ではないですが、関節が緩すぎる人は可動域が大きすぎる傾向にあり、関節が硬い人は可動域も少なすぎる傾向になると思います。
また、別の研究では、白人と黒人の腰椎の可動域の違いを測定した研究では、腰椎の屈曲には違いは見られなかったですが伸展の可能いきでは、黒人の方が大きかったと報告しています。この研究の考察に関しては見ることはできませんでしたが、人種の違いによる骨の構造の違いがあることが推測できます。
まとめ

- 関節可動域の目的は、怪我のリスクの軽減とパフォーマンスの向上である。
- 機能的関節可動域はパフォーマンスを向上させる。
- 関節可動域エクササイズ時は一関節筋に対してアプローチする。
- 胸郭の可動域エクササイズが一番重要である。
- 人種間・性別・環境の違いによって、関節の緩さの違いがある。
- 人種間によって関節可動域の違いがある可能性がある。
本記事では、関節可動域がどのように身体に影響していくのか、そしてどのようなことに注意してエクササイズを行なっていけばいいのかを解説してきました。
エクササイズ内容としては、巷にはたくさんのものが溢れかえっていますが、自分の体としっかりと対面して自分にあった効果的なエクササイズを選んでいく必要もあります。
今後はそういったエクササイズの内容についても書いていけたらと思っています。
参考文献
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