#117 後十字靭帯の基本的な知識とリハビリテーション

ALL REHABILITATION THERAPIST

後十字靭帯の損傷は、スポーツ現場で起こることは非常に稀で、損傷があったとしても見落とされてしまう可能性のある損傷部位でもあります。

そういった損傷部位でもあるため、少しでも知識をつけることで怪我に対する正しい判断ができると思います。

本記事では、その後十字靭帯についての基本的な知識とリハビリテーションの方法について論文をベースにお伝えしていきます。

前十字靭帯損傷について

目次

  • 後十字靭帯の機能解剖
  • 後十字靭帯損傷のメカニズムとグレードの分類
  • 後十字靭帯損傷の発生率と有病率
  • 後十字靭帯損傷の経過と予後因子
  • 整形外科的テストの方法(PCL)
  • 後十字靭帯損傷に対するリハビリテーション
  • まとめ

後十字靭帯の機能解剖

後十字靭帯の機能解剖
前十字靭帯(以下:ACL)よりも後十字靭帯(以下:PCL)はかなり分厚く強靭な靭帯で最大739-1627Nの力までの力に耐えられると言われています 1)。付着部は脛骨プラトーの後顆間部から内側大腿顆の外側表面までです。

PCLもACLと同様、機能的に前外側繊維束と後内側繊維束の2つの繊維束に分けることができると言われていますが、解剖学的には明らかになっていないと言われています 1)。

PCLの機能的な目的は、主に大腿骨に対して脛骨が後方に移動しないようにすることです。

後十字靭帯損傷のメカニズムとグレードの分類

PCL損傷におけるメカニズムは以下の通りです。

●ダッシュボード外傷 2)-5)。ダッシュボード外傷は、PCL損傷の35%で、最も頻繁に起こりうる傷害のメカニズムです。車の運転で何かに衝突した際にダッシュボードに対して前膝に衝突し、脛骨近位部が後方に押されてPCLの損傷を引き起こします。 また、似たようなメカニズムですが、24%のPCL損傷は、膝から転倒したことが原因である可能性があります 6)。
●スポーツ場面でプレーヤーが(過度に)屈曲した膝の姿勢で、別のプレーヤーがそのプレーヤーの大腿に倒れ下向きの圧力が大腿に加えられる膝の過屈曲のストレス 2), 5), 7)。
●スポーツ場面でプレーヤーが膝から倒れたときなど、屈曲した膝に加えられる脛骨の後方へのストレス 8)-11)。
●急激な膝への過伸展ストレス 12)

PCL損傷の程度は3つのグレードに分けられています 13)

– グレード I : 0mmから5mmの後方へのギャップ
– グレード II : 6mmから10mmの後方へのギャップ
– グレード III :10mm以上の後方へのギャップ

グレード I はほとんどの場合、PCL単独の損傷です。
グレード II は単独損傷または、他の靭帯の損傷と合併しています。
グレード III は、他の組織が損傷していないことはほとんどありません。
一部の文献では、グレード IV も言及されており、完全な膝関節脱臼として分類されます 14) 15)。

後十字靭帯損傷の発生率と有病率

PCL損傷の全体的な発生率は、ACL損傷の発生率よりもはるかに低くです。 17.000人以上の参加者と20.000人以上の記録されたスポーツ傷害を対象とした研究では、全体の0.65%がPCL損傷症例で、20.3%がACL損傷症例でした。また、男性と女性の間でPCL損傷の有病率に差がないと報告されています 16)。

PCL損傷の平均的な症例は27.5(±9.9)歳で男性です。損傷の一般的なメカニズムは、交通事故(45%)とスポーツ関連の外傷(40%)であり、そのうち28%がバイク事故、35%がサッカーによる損傷です。 PCL損傷が単独で発生することはめったにないとされています。グレード III のPCL損傷の79%で、患者は他の靭帯損傷を合併していると報告されています 14):ACL(46%)、MCL(31%)、後外側角(62%)。

後十字靭帯損傷の経過と予後因子

PCL損傷の兆候と症状は明確なものではありません。患者は「ポッピング」のような靭帯が切れたような感覚を感じることはありません。ほとんどの場合、不安定さや不快感などの漠然とした症状を訴えます。損傷の急性期には、患者の不満には、軽度から中等度の関節の腫れ、膝の後ろの痛み、ひざまずく痛みなどがあります。亜急性期または慢性期では、脛骨の後方ストレスにより、患者は膝前面の痛みを経験する場合があります。特に、階段を降りたり、ランニング時の減速の動きで痛みを感じます 17)。

手術による外科的処置と保存療法によるアプローチの両方で良好な経過が報告報告されています。また、PCL損傷を経験した患者の半数について、良好から優れた経過のスコアを報告しています 16)。

別の研究では、外科的再建後、グレード I の負傷の83%がスポーツに復帰できたのに対し、グレード II – IV の損傷の76%がスポーツ復帰ができたと報告しています 13)。元のスポーツに戻れない患者の数は、グレード II-IV の損傷で18%、グレード I の損傷で5%であり、定期的に行われるスポーツの頻度、期間、および量の大幅な減少が見られました。

単独の損傷であるグレード II および III の損傷を保存的にアプローチした場合、 4週間以内に良好な機能的回復が見られ、高い割合で69,5%の症例が同じレベルまたはそれ以上のレベルのスポーツに復帰できる可能性があります。しかし、PCL損傷によってスポーツキャリアを終了させてしまう症例もいることは事実としてあります 13) 14)。

整形外科的テストの方法(PCL)

PCLの整形外科的テストについては以下のテストが使用されます。

後部引き出しテスト
後部サグサイン
リバースラックマン

 

後十字靭帯損傷に対するリハビリテーション

後十字靭帯損傷に対するリハビリテーション

手術の有無に関して

急性PCL損傷は、グレード I および II の損傷の場合、手術を必要とせずに保存的アプローチによって管理されます。脛骨の後方へのギャップが10mm未満の場合の損傷です。

ギャップが10mmを超える場合(グレードIIIの損傷)、保存的なアプローチでリハビリする場合もありますが、不安定さが続く場合は、手術による靭帯の再建を行う必要があります 12)。同じことが慢性PCL損傷にも当てはまり、保存的なアプローチがうまくいかなかった場合にグレードIII の損傷の靭帯の再建する必要があります。

リハビリテーションの原則

後十字靭帯のリハビリテーションは、ACLのリハビリテーションプロトコルよりも経過が遅いリハビリテーションプロトコルを行う傾向があります 18)。急性期の保存的治療は、2〜4週間のブレースの着用を行います。 PCLの安定性を確保するには、その治癒のために脛骨の後方へのストレスを避けなくてはなりません。そのため、脛骨の後方へのストレスを避けるためにブレースが必要になります。

リハビリテーションの最初の数週間は、脛骨の後方へのストレスを避けるためにハムストリングスが強く働いてしまうことを禁止しています。また、治療中の関節可動域訓練に関して、最初の2週間は90°に制限する必要があります。 6〜12週間後、治療は、クローズドキネティックチェーンと固有受容器を利用した大腿四頭筋とハムストリングスの強化に焦点を当てていきます。 13〜18週間後に患者が対称的なパターンでランニングができる場合はランニングが許可されます。リハビリテーションの強度は、ジョギングプログラム、高度な固有受容感覚のエクササイズ、およびスポーツ特有のエクササイズによって増やしていきます。スポーツの種類によっては、復帰までにかかる日月として怪我から3ヶ月以上かかることがよくあります 12) 18)。

PCL再建後、移植部位の面積が大きいため、移植部位の治癒にはACL再建術の約2倍の時間がかかると言われています。脚は完全に伸ばされた状態で3〜6週間固定されます。その後、受動的な屈曲の可動域訓練が許可されます。ブレースは、少なくとも2〜4か月間は常に着用する必要があります。リハビリテーション中は、屈曲の程度に応じて脛骨が後方にずれないようにするブレースが役立ちます。過伸展位も3か月間避ける必要があり、単独でのハムストリングを収縮は4か月間避ける必要があります。

スポーツにもよりますが、リハビリテーションには6〜9か月かかる場合があります。最終基準は十分に説明されていませんが、少なくとも90%の四肢対称性指数(LSI)を達成する必要があります 12)。

より細かなリハビリ内容に関しては、以下の英論文を読んでみてください。
» 参考:後十字靭帯のリハビリテーション論文

まとめ

後十字靭帯損傷はあまりスポーツ現場で見ることはないですが、このように知識を知っているだけでも、何か起きた時に対処の幅が広がるので、どのようにして後十字靭帯が損傷されやすいのかなどを知っておくことはとても大切だと思います。

また、実際にリハビリテーションでどのようにするのか、そしてどのようなことを気をつけなければいけないのかということもトレーナーはもちろん選手自身も理解しているとより効率的に復帰までリハビリを行うことができることにもつながります。

参考文献

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18)Pierce CM, O'Brien L, Griffin LW, Laprade RF. Posterior cruciate ligament tears: functional and postoperative rehabilitation. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2013 May;21(5):1071-84. doi: 10.1007/s00167-012-1970-1. Epub 2012 Apr 8. PMID: 22484415.