#6 パフォーマンスアップのトレーニング時に必要なマインドセット
アスリートであれば誰もが、パフォーマンスを上げて自分がしている競技で結果を残したいと思います。一般の方でも健康的になりたい、体重を落としたいなど様々な目的で運動をすることがあります。しかし、ほとんどの人がこのような願望があったとしても実際に達成できないことが多くあるのが現状です。この原因としては、小さな失敗でやる気を失い継続できないことがほとんどです。
本記事では、このような何か願望があるのになかなかできない人に少しでもヒントとなる一つの考え方を紹介させていただきます。この考え方は、障害を持った方々がどのようにしてその障害を受容していくのかというプロセスを基にしています。
目次
- 障害受容のプロセスを参考にする
- アスリートも障害受容のプロセスを参考にできる
- 実際にありがちなメンタルブロック
- まとめ
1障害受容のプロセスを参考にする
僕の持つ資格でもある理学療法士ではリハビリテーションにおいて障害を持った方々と接することが多くあります。学生時代に、障害を持った方々がどのようなプロセスでその障害を乗り越えていくのかということに興味がありました。そしてある授業の内容で『障害受容』という概念があることを教わりました。この概念は有名どころでいくと、ナンシー・コーン、スティーブン・L・フィンク、エリザベス・キューブラ・ロスなどによって提唱されていますが、個人的にわかりやすかったのが、スティーブン・L・フィンクの概念でした。
フィンクの概念としては、
第1に「ショック」段階,第2に否認によって現実の認知を回避する「防衛的退行」段階を通り,第3の「自認」段階で現実的自己像を認知 し,そして第4に「適応と変化」段階に至るとしている。
というプロセスがあるとされています。岩 井 阿 礼, 淑徳大学総合福祉学部研究紀要 43 97-110, 2009 中途障害者の「障害受容」をめぐる諸問題── 当事者の視点から ──
つまり、障害を受けた時は昔の自分ではなくなってしまったことに対してのショックが大きく悲観的になります。そして、その事実を受け入れたくないことから事実を否定し現実逃避のような状態になります。そこから、現実を受け入れることができるようになり今の状態を認識します。最後に認識できた後は今ある状態からどのように今後生きていくかと前向きになり、リハビリに励んだり環境に適応していくようになります。しかし、このようなプロセスを辿ることができずにいくら立っても前向きになれない人も中にはいるとは思います。このような人はこのプロセスのどこかで、立ち止まってしまっている状態になります。
当時、この概念を聞いて非常に興味深く思ったことを今で覚えています。それはどうしてかと言うと、普段の自分の生活においてもこのプロセスが当てはまったからです。しかも、このプロセスは何か願望を持って自分を変えたい人には誰にでも当てはあるプロセスでもあるとも思います。実際にアスリートを例にとってもみていきましょう。
2アスリートも障害受容のプロセスを参考にできる
では、アスリートの場合はどうでしょう。自分のパフォーマンスを上げたい時にはまず自分が何ができないのか認識する必要があります。人によってですが、自分の欠点を自分自身で気づくことができる場合とできない場合とがあります。自分で気づくことができない場合は専門家であるスポーツトレーナーなどからアドバイスをもらうこともありますが、その時に問題が起こることが多い印象にあります。この部分が変わるとよりパフォーマンスが上がるだろうと自分で気づければ、ショックを受けることもなく認識して自分を変えることが容易です。
ですが、スポーツトレーナーなどの他人から言われた場合には、人である以上どうしてもその意見に対して否定をしてしまいたくなります。もちろん、その言われた人との信頼関係や伝え方にもよりますが、僕の経験上からも信頼関係がない状態では指摘という形のアドバイスではアスリート自体がうまく消化できずに反発することが多くあり、実際にショックを受けていることがあります。そのため、できないところをフォーカスさせるのではなく、できるところを褒めて伸ばす、そしてその後に改善点をアドバイスするという流れの方がスムーズにいくことがほとんどです。
個人的な考えではありますが、このような形でコミュニケーションを取れば何も問題なくパフォーマンスを高めるためにトレーニングをすることができます。しかし、その裏腹としてパフォーマンスが上がる速度としてはどうしても遅くなってしまうことがあります。そして、先ほどお伝えした障害受容のプロセスをしっかりと意識して前向きに考えられるようになれば、より早く自分のパフォーマンスを上げられるようになるとも考えています。つまり、指摘されたことに対して、初めはショックを受けそこから逃げたいというような思考になりますがしっかりと自分ができないことを認識して、改善につなげていくというプロセスを辿れた方が、褒めて伸ばす場合と比べて成長スピードが高まると思っています。
しかし、これは単なる理想論であって多くの人の場合先ほど言ったように人の指摘を素直に受け入れることは容易ではありません。ここで言いたいことは、このようなプロセスがあることを知っているだけでも、自分がどの位置にいるのかという認識ができ、仮に壁にぶつかったときや誰かに指摘されて、それを前向きに捉えて成長したい場合にはとても役立つことではあるということです。
3実際にありがちなメンタルブロック
指摘された時に反発してしまうことはある意味メンタルブロックがかかっている状態とも言えると思っています。もし仮に変化・成長に貪欲になりたいと思うような人は、障害受容のプロセスを理解して人からの指摘に慣れておくと良いのかなとも思っています。人として生活している以上、アスリートであれば監督やコーチ、チームメイトなどの人から指摘をされることは必ずあると思います。
そして、多くの場合は自分がショックを受けていることも気付けづに怒りとして言い返すことをしてしまいがちです。怒りという感情の裏には必ず悲しみや不安などの感情が隠れている心理学の世界では言われており、そこに気づくことで怒りの感情をコントロールして、前向きに物事を捉えることができるようになると言われています。個人の経験からも確かにそうだなと思うことは多々ありますし、自分の感情を認識することで客観的に自分を見ることができるようになり感情に振り回されるようなことが少なくなるとも感じています。
話を戻しますが、監督などに指摘された時にはもちろん自分の立場や状況によっては言い返して喧嘩をした方がいい場合もあると思うので、その時はそうするべきだと思っています。しかし、それは感情に振り回されてやるのではなく、言い返した方が結果的にチームが良くなるや自分が成長できると言ったような状況であることをしっかりと予測できた状態で行えるのがベストでもあります。
僕自身がアスリートの経験をしたことがないので、もちろんその状況に置かれたことがなくアスリートの気持ちを理解することはできませんが、このような指摘される状況は一般の方の仕事場でも起こることはあり、個人的な経験からもその方がいいのではないかとは思っています。もちろん、アスリートへの重圧は計り知れないものもあるので、それをコントロールするとなると想像を絶する能力が必要であるとも思っています。
まとめ
今回は、フィンクの障害受容の概念からアスリートの例をとってどのように応用できるかを自分なりの考えでお伝えしてきました。アスリートは障害という形ではなく、指摘という形で自分が現在持っていない能力に気付かされた時にショックを受けて否定して終わってしまうか、ショックを受けて、そこからそのことを認識して改善につなげられるかという違いを生むことになります。
これはスポーツトレーナーとして患者さんや選手たちと関わる上で感じる部分でもありますが、もしかしたら理想論でありすぎて人の性格によっては不可能なことでもあるのかなとも思っています。
僕自身もアスリートとのコミュニケーションの仕方でたくさんの失敗をしてきましたし、今でも難しいなと感じることは多くの場面であります。そのため今後も自分のこの欠点を認識して、改善していけるよう心がけていきたいと思っています。
アスリートにとってはより成長をできるために、スポーツトレーナーにとってはコミュニケーションの仕方として参考になってもらえれば幸いです。
参考文献
障害受容の「悲哀」に関する文献的研究
―「悲哀」における「衝動」と「感情」の関係性の理解のために ―
健康科学と人間形成 Vol.5 No.1,67-73(2019)