#151 運動中の筋痙攣(筋肉がつること)の原因について

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筋肉の痙攣は、運動中または運動後に突然の起こることでもあり、筋収縮と共に痛みを伴うアスリートに共通する問題です。筋痙攣の発生は、予測不可能であり、原因は実際よくわかっていません。しかし、現在の時点で2つの仮説があるとされています。

本記事では、この筋痙攣の原因について現時点で考えられることを紹介していきます。

目次

  1. 筋痙攣の有病率と危険因子
    ・有病率
    ・危険因子
  2. 筋痙攣の原因
    ・脱水と電解質の喪失
    ・筋収縮の神経制御
  3. まとめ

1.筋痙攣の有病率と危険因子

有病率

多くのアスリートは、スポーツ人生の中で一度は、運動中または運動後に筋肉の痙攣を経験したことがあると思われます。実際に筋肉の痙攣に悩まされているアスリートの数を評価することは難しいのが現状です。一部のアスリートはたまにしか痙攣を経験しないかもしれませんが、痙攣は繰り返し起こる人にとっては悩ましい問題でもあります。

痙攣にはさまざまな種類があり、すぐに治まる小さな筋肉の痙攣から、数時間または数日も痛みを引き起こす大きな痙攣まであります。

これらの要因により、痙攣の有病率を推定することは困難ですが、2600人のトライアスリートを対象としたある大規模な調査では、参加者の67%が運動中または運動後にある程度の痙攣を報告し、4%が重度の痙攣を経験したことが示唆されています。

危険因子

痙攣は、さまざまなスポーツで発生する可能性がありますが、より長時間の反復性のある持久力スポーツのアスリートによくみられる身体症状であります。他に高齢、心血管疾患、高温多湿の状態など、多くの危険因子が痙攣に関連しています。しかし、これらの危険因子のほとんどは痙攣のみと相関しており、痙攣の直接的な原因ではないとされています。

現時点において、考えられる主な痙攣の原因は2つありますが、どちらの原因も痙攣の理由を突き止めるまでの根拠とはなっていません。

2.筋痙攣の原因

筋痙攣は、発汗率が高く、電解質の喪失が生じやすい環境である猛暑の夏の間などに運動中または運動後に起こりやすいことが一般的です。しかし、電解質の喪失や脱水が発生していない場合でも、筋痙攣を引き起こす可能性があります。筋痙攣は、疲れや倦怠感によって神経による筋収縮の制御に影響が出る可能性が高くなります。ですが、筋痙攣の研究で、様々な条件下で神経制御の状態を把握することが難しいため、これが起こる正確なメカニズムはよく理解されていません。

以下、少し詳しくこの2つの原因について書いていきます。

脱水と電解質の喪失

発汗による脱水と電解質の喪失が筋肉の痙攣を引き起こす可能性があることは昔から言われていることではあります。電解質は、筋肉の収縮や弛緩などの筋機能に必要であるため、電解質のバランスの崩れは、筋肉の収縮の異常とを引き起こす可能性があると考えられています。

この原因が言われ始めた理由は、1920年代から30年代にかけて、厚手の保護服を着た暑い状況で、肉体的に過酷な仕事をした労働者を対象とした研究からです。これらの研究は主に、痙攣が汗による電解質の喪失に関連していることを示しました。一方、労働者が大量の普通の水を飲んだため、脱水症が必ずしも関係しているわけではないことがわかっていました。

低ナトリウム血症(血中のナトリウム濃度が低い)が特に関係しており、吐き気、錯乱、さらには昏睡などの症状が長く続くと痙攣が起こりやすい可能性があるとされています。ある興味深い研究では、ある製鉄所の労働者に1日中普通の水を飲ませ、近くの別の製鉄所では労働者にナトリウム飲料を与えました。ナトリウム飲料を飲んだ労働者では、痙攣の発生率が大幅に減少したとこの研究では報告しています。

最近の研究では、特にアスリートの筋痙攣について注目をしている傾向にあります。そして、アスリートにおいても運動中の血中ナトリウム濃度の低下が筋痙攣の原因となりうる可能性があると考えられます。また、同時に筋痙攣を多く経験するアスリートはナトリウムが含まれた飲料水よりもただの水を多く飲む傾向があることも示唆されます。ある研究の結果では、汗による電解質の損失補うために炭水化物電解質飲料を飲むと、被験者が筋痙攣を引き起こすのにかかる時間が遅延することを示しています。

労働者を対象にした研究とアスリートを対象にした研究では、筋痙攣を起こすまでの条件が異なるため、同様に考えることはできないですが、これらの研究から推測できる共通点は、電解質の不均衡が筋肉の痙攣を引き起こす可能性があるということです。

筋収縮の神経制御

筋痙攣の神経制御の影響を研究ことは、運動中の筋痙攣を予測できないことから、難しいとされています。そのため、電気的刺激による筋収縮使って多くの研究で行われてきました。ある研究では、グループごとに電解質飲料または普通の水を飲ませ、筋痙攣を電気的刺激によって引き起こさせました。しかし、この両者の間で電気的刺激による筋収縮によって引き起こされる筋痙攣の発生率の低下が見られませんでした。また、同時に筋痙攣を起こしやすい人は、少ない電気刺激でも筋痙攣を引き起こすことが見られ、麻酔薬によって神経をブロックした際にはより多くの電気刺激が筋痙攣を起こすために必要であるということが見られました。このことが示唆していることは、何らかの原因で筋収縮の神経制御がうまく働いていない場合に、筋痙攣を起こしやすいということでもあります。研究で行われる電気刺激による筋痙攣は運動時に起こる筋痙攣と同様の条件下ではないため正確性は問われますが、現時点で行われている研究方法で最も正確であるとされています。これらの研究結果により、筋痙攣を引き起こす原因として、神経系のメカニズムが何らか関係しているということが考えられます。

まとめ

筋痙攣の原因
  • 筋痙攣は、長時間繰り返し動作のあるような持久力系に近いスポーツによく現れる身体症状です。
  • 危険因子として、高齢、心血管疾患、高温多湿の状態などが関係しています。
  • 昔から考えられている筋肉の痙攣の原因は、発汗による脱水と電解質の喪失です。
  • 最近の研究では、神経系の制御機能何らかの影響により筋痙攣が引き起こるとも考えられています。

僕自身は、サッカーをしていて記憶にある中では試合中に1度しか筋肉をつった経験をしていません。ですが、試合に家でリラックスしているときに疲れの影響で足をつったことは何度か経験したことがあります。一方で、チームメイトは試合中に毎回のように足をつっていたことがありました。

このように、この筋痙攣には個人差がとてもあり、今回紹介した2つの原因以外にもさまざまな要因があると個人的には考えています。もし、筋痙攣を減らしたい人がいれば、人によって原因が多少変わってくると考えられるため、自分にあった対策を研究する必要があるのが現時点での見解です。

今回紹介した研究の中に、炭水化物電解質飲料を飲むと筋痙攣を引き起こすのにかかる時間が遅延すると紹介しましたが、大手企業が販売しているスポーツ飲料水は、必要以上に添加された人工甘味料が多く含まれているため、健康的なデメリットが多いと考えています。そのため、個人的には水に質の良い塩やレモンを入れて飲むことをお勧めしています。

参考文献

1)Kantorowski P, Hiller W, Garrett W, Douglas P, Smith R, O’Toole M. Cramping studies in 2600 endurance athletes. Med Sci Sports Exerc. 22(2):S104, 1990

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3)Jung A, Bishop P, Al-Nawwas A, Dale R. Influence of hydration and electrolyte supplementation on incidence and time to onset of exercise-associated muscle cramps. Journal of Athletic Training. 

4)Minetto M, Botter A. Elicitability of muscle cramps in different leg and foot muscles. Muscle Nerve. 40(4):535-44, 2009

5)Minetto M, Holobar A, Botter A, Ravenni R, Farina D. Mechanisms of cramp contractions: peripheral or central generation. J Physiol. 589(23):5759-7, 2011