#8 【論文から考える】スポーツ現場でのバイオデックスの役割
本記事では、スポーツ現場においてのどのような効果・メリットをバイオデックスを使うことで得られるのかを紹介していきます。また、、従来のトレーニングと比べて、バイオデックスを使った等速性トレーニングがスポーツのパフォーマンスにどのような影響をもたらすかということが3つの英論文から考察できましたので、そちらの方も紹介していきます。
目次
- スポーツ現場でのバイオデックスの役割
・バイオデックスの特徴 Isokinetic dynamometers
・バイオデックスを使うメリット - 等速性と等張性トレーニングの効果を比較した3つの研究
- 論文から見るバイオデックスのまとめ
1.スポーツ現場でのバイオデックスの役割
バイオデックスの特徴と使用するメリットについて紹介していきます。
バイオデックスの特徴 Isokinetic dynamometers
等速性トレーニングといえば、バイオデックスです。バイオデックスを使用した等速性トレーニングとフリーウエイトや機械、自重で行う等張性トレーニングを比較した様々な研究があります。
等速性トレーニングは等速性という言葉通り、バイオデックスで一定のスピードを設定して関節を動かすことができるため、他のトレーニング方法と比較して、スポーツ動作からかけ離れたものになります。さらに、ファンクショナルな動作のための設定がされていないため、トレーニングとしての自由度がとても低いです。
これらの要因によりスポーツに特化したトレーニングの要素を取り入れることができないのが現状です。そのため、一般的なトレーニングに使われることはほとんどなく、臨床検査で筋力の評価に使われること一般的です。これらの理由により、パフォーマンス向上ためではない研究論文によく使われています。
バイオデックスを使うメリット
ポジティブな側面として等速性トレーニングは、筋力トレーニングで怪我のリスクがある方の筋力向上の効果があるとされています。バイオデックスの特徴として、筋に自発的な収縮を起こさせない限り、その部位に対しての抵抗運動が生まれず、いつでもトレーニング中断できるためとても安全に実行することができます。
従来のレジスタンストレーニングでは、機械的に関節可動域を制限したり、安全性に特化した方法でない限り、バイオデックスような抵抗運動で安全に行うことはできません。
Sekir, Gur and Akova (2010)らの研究では、ACL(前十字靭帯) 再建の手術を施行した患者の中で、バイオデックスをリハビリに使用した方が、リハビリプロセスの中でより良い結果が出たことを報告しています。
一方では、Green, Bourne and Pizzari (2018)らの研究で、ハムストリングス損傷のリスク因子を調査するためにバイオデックスを使用した時は、的確な結果を得られなかったと主張しています。
この研究では怪我の予測に適したものではないという結論が出ましたが、このバイオデックでの測定法は、ハムストリングと四頭筋、内転筋と外転筋などの拮抗筋や左右差の比較としてリハビリ経過を観察するための共通の評価法で、実際に幅広く使われています。
2.等速性と等張性トレーニングの効果を比較した3つの研究
等速性と等張性トレーニングの効果を比較した研究を3つ紹介します。
等速性と等張性トレーニングの効果を検証するために膝関節伸展トレーニングで比較研究(Remaud, Cornu and Guevel (2010) )
・目的:
神経筋系に対する膝伸筋の等張性と等速性のコンセントリック収縮の筋力トレーニングプログラムの効果を比較
・方法:
この研究は膝の怪我をしたことがない学生30名をランダムに対照群と等速性トレーニング群、等張性トレーニング軍に分け、週3回のセッションを8週間、実行した。(等速性トレーニング:150〜180°/sec, 等張性トレーニング:40%RM)
・結果:
その結果、両方のトレーニング群(対照群を除く)の筋力の改善がみられ、2つのグループ間で違いはなかった。
・結論:
この2つのトレーニングメソッドは、コンセントリックの筋力を改善するのに効果がある可能性がある。
この研究グループではもう一つ、等速性と等張性トレーニングの比較で大腿四頭筋とハムストリングスを筋電図で観察しました。筋出力の増加につれて筋活動の増加の違いを明らかにしましたが、先ほどの結果と同様にグループ間に筋力改善の違いはありませんでした。この研究で注意したいのは、OKC(オープンキネティックチェーン)での単関節運動のため、等速性と等張性トレーニングの違いを生むことができていなかったと推測されます。
Matta et al. (2017) らは等速性と等張性トレーニングの比較を膝伸展動作での大腿四頭筋の筋肥大の違いに着目して研究
・目的:
14週間の等張性と等速性の大腿四頭筋のトレーニングをおこなった結果、どちらのトレーニングがより筋肥大に効果的かどうか。
・方法:
軍人35名をランダムに対照群と等速性トレーニング群、等張性トレーニング軍に分け、通常の活動と加えて週2回、片方の膝伸展運動3セットを実行。(筋負荷を筋力増加に伴い増加)筋の太さは超音波で評価。
・結果:
等張性トレーニング群では大腿直筋の筋肥大が他の大腿四頭筋と比較して著しく増加したのに比べ、等速性トレーニング群では大腿直筋の筋肥大が内側広筋と比較して著しく増加した。
・結論:
等速性と等張性トレーニングはとても似た結果になった。
この研究でもまた、軍人だけではなく一般の健常者でも同じような結果になると予測されています。そのため、どちらのトレーニングを選択しても大腿四頭筋に対して似たような筋肥大の結果になりえます。
等速性、等張性、等尺性トレーニング間のトレーニング効果を比較した研究(Lee, Lira, Nouailhetas, Vancini and Andrade (2018))
・目的:
多くの研究で、等速性、等張性、等尺性トレーニング間の負荷量の基準が曖昧なため、研究結果が確かではないという事象をもとに、トレーニングの負荷(ボリュームと強度)が同一である場合に、等尺性、等張性、等速性トレーニングに対して、筋力、質量、および機能的パフォーマンスを比較する。
・方法:
普段トレーニングをしていない42名の大学生と教職員を対象に実施された。彼らは、よりファンクショナルな3連続の垂直跳びの測定に続いて、バイオデックスを使った筋力を測定した。この研究は週3回の大腿四頭筋エクササイズを8週間実施させた。
・結果:
等尺性と等張性トレーニング両方に同じような筋肉量の増加がみられた。しかし、筋力増加は等尺性トレーニングの方が効果的だった。一方で、等速性トレーニング群では筋肉量の増加は見られなかった。しかし、このグループだけがジャンプテストで改善した結果がみられた。
・結論:
等張性トレーニングの代用として等尺性トレーニングが使えることを示唆し、それに加え、等速性トレーニングを日動動作やスポーツのファンクショナルの改善につながる。
この研究ではスポーツスキルの改善ためのトレーニングとして、過剰に楽観的に等速性トレーニングを高評価しているとも言えると思われます。
3.論文から見るバイオデックスのまとめ
- 等速性トレーニングは、スポーツに特化したトレーニング適していないと言われている。
- 等速性トレーニングは怪我をして、抵抗運動にリスクがある方には安全に実行でき、かつ ACLの患者さんでより良い結果が出ている。
- バイオデックスを使用して測定することは、怪我を予測に適していないという研究結果がある中、現場ではリハビリ経過を観察するための共通の評価法として使用されている。
- OKCの単関節トレーニングでは等速性、等張性トレーニングはコンセントリックの筋出力の改善にはほぼ同じ効果を示す。
- 等速性、等張性、等尺性トレーニング間で、同じ負荷量に設定した場合は、等尺性トレーニングで筋力増加、等速性トレーニングでジャンプの改善がみられた。
上記にまとめた通り、研究結果からこのようなことが推測されます。
しかし、最後に紹介した等速性、等張性、等尺性トレーニング間を調べた研究の結果は、負荷量を一緒にした分、現場では落とし込みづらいのではないかと思っています。
個人的には筋力トレーニングはなるべくスポーツに近い動きで行う方がパフォーマンスにより良い影響を与えると考えていますので、このような研究をどう捉えるかは、現場の現状を見ながら判断していきたいですね。
以下、今回使用した引用文献です。
1) Green B, Bourne MN, Pizzari T. Isokinetic strength assessment offers limited predictive validity for detecting risk of future hamstring strain in sport: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(5):329‐336. doi:10.1136/bjsports-2017-098101
2) Lee, S.E.K., Lira, C.A.B., Nouailhetas, V.L.A., Vancini, R.L. and Andrade, M.S. (2018). Do isometric, isotonic and/or isokinetic strength trainings produce different strength outcomes? Bodyw Mov Ther. 22(2), 430-437.
3) Matta, T.T., Nascimento, F.X., Trajano, G.S., Simâo, R., Willardson, 3.M. and Oliveira, L.F. (2017). Selective hypertrophy of the quadriceps musculature after 14 weeks of isokinetic and conventional resistance training. clin Physiol Funct Imaging. S7(2), 137-142.
4) Remaud A, Cornu C, Guével A. Neuromuscular adaptations to 8-week strength training: isotonic versus isokinetic mode. Eur J Appl Physiol. 2010;108(1):59‐69. doi:10.1007/s00421-009-1164-9
5) Sekir, U., Gur, H. and Akova, B. (2010). Early versus late start of isokinetic hamstring-strengthening exercise after anterior cruciate ligament reconstruction with patellar tendon graft. dm JSports Med. 58(5), 492-500.