#27 足関節の捻挫 – シンデスモーシス:脛腓靭帯損傷 (Syndesmosis Injury) –

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今回は足関節捻挫でも完治するまでの期間が長いとされている、シンデスモーシス:脛腓靭帯損傷(Syndesmosis Injury、別名:high ankle sprain) についてトレーナー向けに書いていきます。

聞き慣れない怪我の名前かもしれませんが、ヨーロッパなど海外でのフィジオやドクターの間では共通の怪我の名前なので、もし日本以外でも仕事をする場合は覚えておいて損のない名前です。

実際に何例かの症例も経験したことがあるので、その経験からわかった臨床的な話も後半はしていきたいと思います。

目次

  • 足関節捻挫、シンデスモーシス(Syndesmosis Injury)とは?
  • 一般的な症状と復帰までの期間
  • シンデスモーシスのリハビリの実際
  • まとめ

Syndesmosis Injury (high ankle sprain)とは?

Syndesmosis Injury (high ankle sprain)とは
Syndesmosisとは脛骨と腓骨の間にある結合組織のことで前脛腓靱帯、後脛腓靱帯、下腿骨間膜によって構成されています。Syndesmosis Injury (high ankle sprain)とは具体的にこれらの結合組織が損傷したことを言います。

Syndesmosisは足関節の安定性に非常に大事な役割があり、特に歩く時の足関節の安定性に関与します。

そして、約11-18%の捻挫の症例で発生すると言われ、特に外反と外がえしを伴った足関節捻挫が生じた時にこのSyndesmosisが損傷受けている場合があります。

また、別の報告では内反捻挫の40%の受傷者から足関節の前方の関節包の断裂によりSyndesmosisと似た痛みの訴えがあるとされています。

スポーツでは特にサッカーやアメフト、スキーなど発生することが多いとされています。

損傷の程度により、3つのグレードに分けられます。

●グレード1
前脛腓靱帯の伸長、もしくは部分断裂。関節の不安定性なし。

●グレード2
前脛腓靱帯の完全断裂と下腿骨間膜の部分断裂。足関節の不安定性あり。

●グレード3
前脛腓靱帯、後脛腓靱帯、下腿骨間膜の完全断裂と完全な不安定性あり。

 

合併症

合併症
Syndesmosis Injury (high ankle sprain)はくるぶしの骨折、もしくは内側の三角靱帯の損傷を合併していることがあります。また、Maisonneuve骨折(遠位脛腓靱帯および下腿骨間膜の損傷に腓骨近位部骨折を伴ったもの)が生じていることもあります。

Maisonneuve骨折では、下腿の腫脹が高度であることが多いですが、さほど下腿全体のの主張を認めないケースもあるので、下腿や膝周辺の診察も忘れないようにする必要があります。

Syndesmosis Injury (high ankle sprain)は競技復帰までに内反捻挫よりも長期的な痛みと時間が要することが知られています。

 

一般的な症状と復帰までの期間

一般的な症状と復帰までの期間
Syndesmosisの症状として、足関節の激しい疼痛があります。立脚初期の足が地面につく時と立脚後期の足で地面を蹴る時に特に痛みが現れ、圧痛もあります。

また、背屈の最終可動域で痛みが生じることが多く、Syndesmosisの部位の圧痛の程度がSyndesmosis Injuryの回復具合と関連していることがあるとされています。

診断方法としては、触診や整形外科的テスト(Fibular Translation Test, Cotton Test)、MRIの画像診断があります。また、レントゲンで骨折の有無を判断することもされています。

治療過程としては、損傷程度によって分類されています。

●グレード1
1週間から3週間のギプス固定もしくは負荷免除のための松葉杖を使用します。その後、すぐに負荷を与えたリハビリをしていきます。

●グレード2a
不安定性の度合いによって変化しますが、基本的には3週間以上のギプス固定もしくは負荷免除のための松葉杖。MRIによってこの期間を判断されることもあります。その後、すぐに負荷を与えたリハビリをしていきます。

●グレード2b, グレード3
ボルト固定による手術をします。術後2週間はギプス固定で負荷を与えません。その後。負荷を与えたリハビリを徐々にしていきます。

必要なリハビリ

·スタビリティーエクササイズ
·可動域エクササイズ
·筋力トレーニング
·バランスエクササイズ
·復帰スポーツに特化したエクササイズ
·必要に応じて、サポーターやテーピングの使用

復帰までの期間

●グレード1·グレード2a
約6から8週間

●グレード2b
約8から10週間

●グレード3
約10から14週間

シンデスモーシスのリハビリの実際

シンデスモーシスのリハビリの実際
実際にリハビリを担当したのはプロのサッカー選手ですのでその時に経験したことを元にリハビリする時のポイントをお伝えしていきます。

その選手は、サッカーの試合中に相手に勢いのあるスライディングをされて、内反方向に足首をかられてしまったがために足首の捻挫をしてしまいました。怪我の翌日はチームドクターの診察で、グレード2aのシンデスモーシスと診断を受けました。MRIの結果からもそのドクターによると前脛腓靭帯が3/4切れているということでした。幸にも他の靭帯の損傷はなく割とシンデスモーシスの中でも悪くない状態だと言えます。しかし、ドクターからは治療のプロトコール通りに2週間の装具による固定と松葉杖での歩行を指示されました。

僕が診て欲しいといわれて診始めたのが受賞後2日目で、足首を見てみると強い腫れと熱感、内出血がありベッド上で足を動かしてもらっても痛みと腫れによってほとんど動かせない状態でした。また触診をしても皮膚を触れるだけで痛みが出るような状態でした。

話は少しそれますが、僕自身がオランダの理学療法士免許の書き換えを終えてることもあり、リハビリのプロトコルではオランダのプロトコルを参考にすることもあります。
» 参考:オランダの理学療法士のための怪我のプロトコルが載っているサイト

オランダの足首捻挫のプロトコルで、基本的に炎症期(0〜3日)の期間中は

・15分から20分のアイシングを1日1〜3回
・痛みを防ぐために松葉杖の使用
・回復のために極力負担をかけない生活をすること
・循環をよくするために痛みが出ない範囲で足を動かすこと
・圧迫のためのバンテージを巻くこと
・腫脹がある場合はテーピングで強く固定しないこと

とされています。

このことを踏まえてた上で、個人的な経験を基にリハビリに取りかかりました。

見た初日は少し動かしても痛みが発生したため何もできないと思うかもしれませんが、可動域を拡大する目的として痛みが出ない範囲で徒手でモビライゼーションをしていきました。初期の段階ではまず皮膚の動きを良くするための施術、その後は脂肪組織を筋膜、筋本体、と順番に深くアプローチをしていきます。

この日はアプローチによって、全体的な痛みも減って自動で足首を反対側と同じくらいまで動かせるようになりました。しかし、痛みが出る動きもまだあったのでそれはやらないようにしてもらいました。また、腫れも施術後は減り一回り足首も小さくなりました。

また、徐々に痛みのない範囲で筋肉の収縮の再教育をしていくことも同時にやっていきました。この筋収縮の再教育のやり方は理学療法士の分野で研究された片麻痺ひの方にも使う技術を使用しました。そのやり方としては怪我をしていない方の足の筋肉を刺激入れることで怪我側の筋肉を活性化させていくということをしていきます。

この2つのアプローチによって、2週間の装具の固定と言われてたものが、1週間くらいでテーピングなしでも歩けるようになりました。その後は少し経過は省略しますが、最終的に4週間でチームのトレーニングに合流することができました。

以上のことで注意しておきたいことは、靭帯の組織自体が回復しないと完治しないこともあるのでその靭帯に負担をかけないように治療やトレーニングをすることが大前提になります。例えば、痛みが出る動作や靭帯に過度に負担がかかりそうな動作はやらないとか、関節の不安定感が出るのであれば負荷が早すぎるとかこのようなことで確認していきます。

それがしっかりとできた上で、ドクターの診断や一般的にいわれているプロトコルなどはありますが、スポーツトレーナーとしてその選手の状態をしっかりと把握して、治療・トレーニングしていくことでその選手の最適な状態を保ちながらリハビリすることができるということです。

補足ですが、トレーニング中には”股関節の捉え”を意識させながら行ったことによって足首に対しての負担を体全体で分散できるようになったことで足首の痛みが減り、回復が早まったことも考えられます。そのため以前、股関節の捉えについて書いた記事もあるので合わせて読んでみてください。

まとめ

一般的な捻挫では、足部の外側を捻って痛める内反捻挫が多く生じます。しかし、たまにサッカーやアメフト、スキー、もしくは柔道などの競技に関わっていると普通の捻挫よりも痛みが激しく、歩行も難しい症例に出会うことがあります。

僕の個人的な経験では、サッカー選手の他に柔道の選手に関わっていた時には何回かこのシンデスモーシス:Syndesmosis Injury (high ankle sprain)を経験することができました。

普通の捻挫よりも復帰するまでの期間が長いため、受傷後にしっかりと鑑別をしてシンデスモーシス:Syndesmosis Injury (high ankle sprain)の疑いがあるのであれば、レントゲンやMRIをとってしっかりと完治するまでに計画を立ててリハビリすることがとても重要になります。

あまり知られていない捻挫でもあるので、捻挫だからといってあまくみずトレーナーとしてしっかりとケアができるようにしていくことが大切だと思っています。

 

 

参考文献

Calder JD et al. Stable Versus Unstable Grade II High Ankle Sprains: A Prospective Study Predicting the Need for Surgical Stabilization and Time to Return to Sports. Arthroscopy 2016;32:634-642

McCollum GA et al. Syndesmosis and deltoid ligament injuries in the athlete. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2013;21:1328-1337

Mulligan EP. Evaluation and management of ankle syndesmosis injuries. Phys Ther Sport 2011;12:57-69