#62 頭の位置が前にずれていることでの身体への影響

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人間の頭は体全体の重さの6%を占めていて、この頭の位置のズレによって体にさまざまな悪影響を及ぼすと言われています。

正常な頭の位置は正面からみた場合体の正中線上に位置し、横から見た場合は耳の位置がちょうど足首、股関節、肩の真上にであるとされています。

しかし、近年では携帯やパソコンの普及、運動不足などによって頭の位置が通常よりも前方に位置している人が多くなっているのが現状です。この頭の位置が前にある状態のことをthe foeward head posture (FHP) と言いますが、日本ではよくストレートネックと言われています。

本記事ではこのような頭の位置のズレによって起こり得る体の問題について、論文の内容から紹介した後に実際にどのように頭の位置のズレを改善していけばいいのかを解説していきます。

姿勢反射について書いた記事もあるのでよかったらこちらも読んでみてください。

目次

  1. 頭の位置のズレが及ぼす体の変化
    ・呼吸器系への影響
    ・筋肉の活動への影響
    ・固有感覚とバランスへの影響
  2. 頭の位置のズレを改善する方法
    ・踵重心から母指球重心にかえる
    ・骨盤の後傾位から骨盤を立たせる
    ・胴体の深部を伸ばす
  3. まとめ

1. 頭の位置のズレが及ぼす体の変化

頭の位置のズレが及ぼす体の変化

呼吸器系への影響

頭の位置が前方にずれることでの呼吸器系への影響について調査された研究がいくつかあります。それらの研究では、構造上の問題によって頭が前に傾くと、下部肋骨の動きが減少する、胸の上部が拡張し、胸の下部は縮小する、呼吸中の胸の下部の動きが制限されるという事が起きると報告されています。

また、呼吸器能力に関しては、慢性的に頭の位置が前方にある姿勢だと胸いっぱい空気を吸って可能な限り一気に吐きだす量(努力性肺活量:FVC)と1秒間に吐き出せる空気の容量(努力呼気容量:FEV1)が正常の頭の位置の人と比べて優位に低い結果が出ています。

さらに正常な頭の位置の人があえて頭の位置を前にずらすと同じように、努力性肺活量と努力呼気量が大幅に減少することが示されています。

そして頭の位置が前にずれればずれるほど呼吸機能が低下することの相関があるとされています。

以上のことから、頭の位置が前にずれればずれるほど胸郭の動きが制限されてその結果として、肺機能にも影響が出る事が示されています。

筋肉の活動への影響

次に頭の位置のズレが筋肉の活動にどのように影響を及ぼすのかということを紹介していきます。

頭の位置がずれると首の周りの筋肉の張力に変化が起こります。具体的には首の深部の屈筋が弱くなり伸筋は短縮します。さらに胸鎖乳突筋などの表面にある筋肉は筋活動が増加する事がわかっています。また、前方にある頭の位置と胸鎖乳突筋や前斜角筋などの呼吸補助筋の活動に正の相関があることから、頭が前にずれればずれるほど首回りの筋肉が緊張してコリや痛みを及ぼす可能性もある事が考えられます。

固有感覚とバランスへの影響

最後に体の部位の位置を感知する位置覚に頭の位置のズレがどのように影響するのか、そしてバランス機能にどのように影響するのかを紹介していきます。

頭の位置のズレが大きければ大きいほど、位置覚に異常があり頭の傾きの程度の自覚する位置と客観的な位置での誤差がある事がわかっています。また、目を閉じた状態で頭を動かすことに関しても頭の位置のズレが大きい人の方が誤差があると言われています。これは頭の位置や動きだけでなく、肩や脊椎などのたの関節にも影響する可能性があることも示唆されています。
この位置覚は筋肉のところにも存在し、頭の位置のズレによって筋のバランスや長さが崩れたことによって起こっていると考察されています。

頭の位置のズレとバランスの関係については、動的バランスではあまり優位な差が見られませんでしたが、静的バランスにおいて開眼と閉眼でのバランス能力の低下が頭の位置のズレがある方にあったと報告されています。また、頭の位置と胴体の位置がずれていればずれているほど重心の揺れが大きくなる事が明らかにされています。
つまり、頭の位置がずれている事で静的バランスの能力の低下とバランスを取るときの重心の動揺の増加があり、このようなバランス能力の低下が生じる可能性がある事が考えられます。

2. 頭の位置のズレを改善する方法

頭の位置のズレを改善する方法
頭の位置のズレにより、呼吸機能の低下や筋活動の変化、固有受容器やバランス能力の低下がある可能性がある事を述べてきました。これは反対に言えば、頭の位置を正常な位置に戻すことによって、これらの体の機能が今よりも向上する事ができるということが言えます。アスリートなどの身体機能を最大限に活かして活動する人にとっても特に肺活量や筋の過度な緊張、バランス能力は非常に大事なことは一目瞭然です。

ここからは具体的にどのようなポイントで頭の位置のズレの修正をしていくのかを書かせていただきます。

踵重心から母指球重心にかえる

頭の位置を決めるのに体全体の姿勢というのはとても重要になってきます。その中でも体の土台を作る足部に対する重心が後方になってしまうと、胴体が丸まってきてしまいそれを代償するために頭の位置が前にずれていきます。そのため、足部の重心を母指球あたりに置く意識を持つことで頭の前方へのズレを少なくすることが可能になります。

骨盤の後傾位から骨盤を立たせる

座っている時や立っているときに現代人でありがちなのが骨盤が後傾していることです。これは足部の重心が後方に位置してしまっていることからも影響を受けますし、骨盤自体が常に後に傾いてしまっている場合もあります。骨盤が後傾することで胴体が丸くなってしまい頭の位置が前にずれてしまいます。そのため骨盤を立てる意識を持つ必要があります。これはスクワットや歩く姿勢などでもお尻の筋肉をうまく使えるようにトレーニングする事で骨盤を立てることとはそういうことかというのが少しずつわかってきます。

胴体の深部を伸ばす

胴体の深部伸ばすとは、胸郭の奥、横隔膜から腸腰筋をしっかりと伸ばせることを意味します。つまり、よくありがちな姿勢を良くするために胸を張るだったり、胸を反る動きとは変わってきます。胸郭の奥、横隔膜から腸腰筋を伸ばせるようになるには、先ほど説明した骨盤を立てることと胸郭の柔軟性があることがとても重要になってきます。これらが向上してくると胴体深部が伸びる感覚というのがつかめてきます。

3. まとめ
今回の記事では、頭の位置のズレによって起こる体の問題とその改善方法についてお伝えしてきました。これらは以下にまとめてあります。

・頭の位置のズレがある人では、胸部の呼吸運動や呼吸機能、特にFCVとFEV1に異常が見られます。
・慢性的な異常な頭の位置によって引き起こされる筋活動の変化は、固有受容感覚と体の安定性に悪影響を及ぼし、さらに首の緊張や痛みの発生の増加をもたらします。
・頭の位置のズレを改善するためには、母指球重心で骨盤を立てて、胴体の深部を伸ばせるようになることが必要です。

近年では座ることやパソコンや携帯を使うことが多くなったりすることで、悪い姿勢のまま体を固定してしまう生活が強いられています。知らず知らずのうちに姿勢が崩れて肩こりになったり、アスリートであればパフォーマンスが低下したり、怪我をしてしまったりすることもあり得るので、今回の記事を参考にしてより良い生活を送れるようにしてみてください。

参考文献

1)Szczygieł E, Fudacz N, Golec J, Golec E. The impact of the position of the head on the functioning of the human body: a systematic review. Int J Occup Med Environ Health. 2020 Sep 17;33(5):559-568. doi: 10.13075/ijomeh.1896.01585. Epub 2020 Jul 23. PMID: 32713947.