#142 CBDのアスリートへの可能性【メリットやリスクなど】

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アメリカ合衆国の女子サッカー選手、ミーガン・ラピノーやプロゴルファーのジェリー・”バッバ”・ワトソン、アメリカンフットボール選手のロバート・グロンコウスキー、元NBA選手のラマー・オドムなど、多くのプロアスリートが、一般にCBDとして知られているカンナビジオールの使用を支持していると言われています。

カンナビノイドは、大麻草に含まれる化学物質の総称で、100種類以上あるとされています。
その中で、一般的にもよく知られているカンナビジオール(CBD)という成分があります。CBDの研究では数は少ないですが、関節痛、炎症症状、筋肉痛などの運動に関連する症状の改善に効果の可能性があることが示されています。

CBDには、向精神作用のあるテトラヒドロカンナビノール(THC)とは、違い向精神作用はありませんが、以上の作用を含めた多くの類似したメリットがあるとされています。

本記事では、このCBDがアスリートにどのようなメリットを及ぼし、貢献できる可能性があるのかを紹介していきたいと思います。

目次

  • CBDのアスリートへの可能性
  • アスリートにとってのCBDの5つのメリットと副作用
  • ドーピングについて
  • CBDを試す前に知っておくべきこと
  • まとめ

CBDのアスリートへの可能性

CBDと聞いて、すぐに大麻やマリファナだと連想して距離を置く人がいるかもしれません。しかし実際にCBDとはどのようなものなのか、そして何のためになぜ使用しているアスリートがいるのか、それは合法なのかを知ることで、さまざまな違った視点でCBDを見ることができるようになると思います。

CBDは、大麻草に自然に見られる植物性カンナビノイドです。大麻にも含まれているTHCとは異なり、CBDは向精神薬ではありません。CBDに含まれるカンナビノイドは人間の体で自然に発生されるものでもあります。体内で自然に発生されるカンナビノイドを内因性カンナビノイドと呼んでいます。

歴史上において、いくつかの科学者たちは、ニューロンの活動を調節するエンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれるものを発見しました。CBDがESCにどのように影響しているのかは、長い間あまりわかっていなかったようですが、2018年の研究で次のことが解明されてきているそうです。

神経系内で内因性カンナビノイドは、シナプス前終末で生成され、その後、放出され、シナプス後細胞の樹状突起にある受容体に結合します。この一連の流れにより、特定の神経伝達物質の放出を阻害するように作用すると言われています。例として挙げると、CBDがてんかんの治療に使用される場合、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の蓄積を部分的に減らすことによって、転換発作を減らす可能性があるとされています。

このシナプス後細胞の樹状突起にある受容体は、脳や脊髄、その他の組織全体、さらに免疫系の組織にも見られます。CBDのこの受容体への結合は、中枢神経系への影響や抗炎症作用などもあるとされています。

ECSの主な目的は、神経伝達物質のレベルを抑えることによってホメオスタシスを維持することであるとも言われています。そしてCBDを摂取することで、ECSの活動を助けると考えられています。

CBDをアスリートに使用することで、このECSが精神的、そして身体的ストレスによって、過剰な痛みや炎症をコントロールできなくなったときに、CBDを摂取することで、ECSで処理できる神経伝達物質を抑制し、ホメオスタシスを維持するのに役立つ可能性があると考えられます。

アスリートにとってのCBDの5つのメリットと副作用

アスリートにおいて、CBDを摂取する上での5つのメリットがある可能性があります。

1.痛みや疼痛を軽減させる

ある研究によると、CBDは痛みを和らげ、炎症を軽減する効果がある可能性があり、高強度な負荷で活動しているアスリートに役立つ可能性があります。

THCは痛みの治療にも使用できますが、副作用を引き起こすことが懸念されており、運動パフォーマンスにも影響を与える可能性があります。実験用ラットに関する2004年の研究では、THCは短期記憶を損なう可能性があるとされていますが、CBDにはそのような副作用はないことが報告されています。また、世界保健機関の2018年のレポートでは、THCやオピオイドなどの他の鎮痛物質とは異なり、CBDには依存の可能性がないとうことを示しています。

炎症自体は怪我や疲労において良いことであり、トレーニング後の回復に役立ちます。しかし、炎症が過剰になると回復が妨げられ、パフォーマンスが低下します。脳の中枢神経と末端の末梢神経にはシナプスの受容体があり免疫組織と関係します。この受容体に結合するカンナビノイドは、免疫細胞を活性化させるサイトカインの産生を減少させることにより、抗炎症効果を発揮する可能性があります。 つまり、CBDは激しい運動後に過剰に働く免疫機能を正常に作用させる可能性があるということです。

2.腸の炎症を抑制する

小腸と大腸の炎症は多くの不快感を引き起こし、持久力系のアスリートにとってパフォーマンスの低下を引き起こす原因にもなります。CBDは脱水症状や過剰な熱による胃の問題には効果がないとされています。一方、運動中または運動後の腸の問題となる根本的な炎症がある場合、CBDは症状を軽減するのに効果的である可能性があります。結腸にはCBDが結合できる受容体があり、実際のマウスを使った研究では、大腸炎の症状がCBDが結合により抑制したことを報告しています。

3.睡眠の質を改善する

睡眠の質を良くすることは、アスリートがトレーニング効果を最大限引き出すためにとても重要な要素の1つです。CBDを消費するアスリートは、入眠することが簡単になり、睡眠の質が向上することが言われています。これはCBDが睡眠物質であるアデノシンの再取り込みを阻害する働きがあることから考えられています。

アデノシン三リン酸(ATP)は、脳がエネルギーのために炭水化物を燃焼するときに分解され、その産物としてアデノシンが生成されます。そして、アデノシンは徐々に脳に蓄積します。ニューロンの受容体に多くのアデノシンが結合することは、神経伝達物質の放出を阻害し、脳の活動を低下させ、睡眠を誘発します。眠っている間にアデノシンが再利用されてアデノシン三リン酸が再び作られ、目覚めてからの活動のエネルギー源として準備されます。

体は、通常アデノシンを再取り込みすることで、活動エネルギーを確保しようとしますが、CBDはアデノシンの再取り込みを阻害することによって脳内のアデノシン量を増加させます。そのためアデノシンがより早く脳内に蓄積し、より早く眠気が起きるようになります。 また、CBDは、一部の人とって抗不安効果をもたらす可能性があり、それにより眠りにつくのを助け、より安らかな睡眠をとることができるとされています。

4.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の代替え

アスリートは、イブプロフェンやナプロキセンナトリウムなどの市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を何十年も使用してきましたが、最近では以前考えていたほど安全ではない可能性があることが言われています。特にマラソン選手などの持久力系のアスリートは、腎障害のリスクが高まるため、通常、長時間のトレーニングセッション中はNSAIDsを避けるようにアドバイスされています。ただし、トレーニングが短時間であっても、NSAIDsを長期間または頻繁に使用すると、心臓発作や脳卒中のリスクが高まる可能性があることが示唆されています。

一方で、CBDの痛みを和らげる効果が、最小限の副作用で、NSAIDsの代わりに使うことが可能であることを一部のアスリートは考えています。また、研究者たちも大麻またはカンナビノイドベースの製品による死亡は記録されてなく、身体の有害であることがほとんど報告されていないことからNSAIDsよりも安全であることを示唆しています。

5.オビオイド鎮痛薬の代替え

オピオイド鎮痛薬は、疼痛管理に非常に効果的ですが、過剰摂取による依存症と死亡の重大なリスクを伴います。カンナビノイドは、急性の高強度の痛みを和らげるのにオピオイドほど効果的ではありませんが、依存症や偶発的な死亡のリスクがはるかに少な意図されています。そのため、単独または他の薬剤との併用による長期的な痛みの管理には効果的である可能性があります。

CBDオイルの副作用

CBDの副作用を感じる人がいますが、比較的少ないとされています。 CBD使用の最も一般的な副作用は次のとおりです。

倦怠感
下痢
体重の変化
食欲の変化

ドーピングについて

2018年、世界アンチ・ドーピング機関は禁止物質のリストからCBDを除外しました。ただし、マリファナの精神活性成分であるTHCは、合成カンナビノイドと同様に、依然としてスポーツで禁止され、ドーピングとして分類されています。

CBDが含まれている製品を使う場合、気をつけなければならないのは、信頼できる製品を選ぶことです。ドーピングのテストの種類によっては、信頼できない製品からTHCが陽性であるとされた人々の報告がいくつかあります。

このようなことがあるため、薬物検査が必要なプロアスリートの場合は、CBDの服用を避けたいと思うかもしれません。ですが、服用することを選択した場合は、製品ラベルをしっかりと読み、その製品をしっかりと調べて、高品質の製品であることを確認する必要があります。

CBDを試す前に知っておくべきこと

CBDは副作用が軽く自然のものではありますが、試す前に医学的アドバイスを医者などに求める必要があります。持病やなんの薬を服用しているかによって、CBDの使用を推奨できるかどうかが決まってきます。

特に薬に関しては、肝臓で処理される薬が当てはまり、CBDと相互作用を引き起こす可能性があるので注意が必要です。

CBDを初めて使用する場合は、低用量から始めて、スポーツやトレーニングの前に使用しないことが大切です。低用量で効果を確認して、必要であれば徐々に高い用量を使うようにしていきます。

イタリアの最近の研究では、CBDオイルが瘢痕や乾癬の治療にも使用できることを示しています。

まとめ

CBDオイル
CBDがアスリートに与える影響については、まだ不明な点が多くありますが、今後の更なる研究によっては調べる価値があることではあると思います。スポーツ選手に関しては、疼痛の軽減に役立つことができれば、なおCBDに期待することができます。

現時点でCBDについて知られていることは、鎮痛剤、抗炎症剤、睡眠補助剤としての回復や運動能力を改善する大きな可能性があるということです。そして、アスリートに対してNSAIDs、オピオイド、処方睡眠補助薬の使用を減らしたいと考える場合は、CBDを代替えとして使用することも可能であると言えます。

CBDを使用したい場合、服用している薬や持病との関係を医者に相談することが大切です。使用法は低用量から始めて、体の反応を見てから、使う量を増やしていくことがとても重要になります。

THCが0.3%未満のCBDの製品は、合法な国が多いですが、日本の場合は、THCが0.1%未満の場合が合法になります。

アスリートにとってCBDは禁止物質ではありませんが、購入した製品のラベルに記載されている内容以外のものが含まれている可能性がある場合があるため、いつもリスクを伴います。実際に大量のTHCまたはその他の禁止物質が含まれている場合は、ドーピング違反として見なされてしまいます。そのためどのような製品を使用するのか、そしてこのようなリスクをとるのかは、そのアスリートの個人の問題となってしまいます。

個人的には今の段階では、リスクもあり、アスリートが使った方がいいとは正直思いません。ただ、今後のさらなる研究によって、さまざまなメリットが確実に実証されて、リスクなくアスリートに貢献できるようなものになれば、推奨できると思います。

参考文献

1)Pacher, P. “The Endocannabinoid System as an Emerging Target of Pharmacotherapy.” Pharmacological Reviews, vol. 58, no. 3, 2006, pp. 389–462., doi:10.1124/pr.58.3.2.

2)Halawa, Omar I., et al. “Role of Cannabinoids in Pain Management.” Essentials of Pain Medicine, 2018, doi:10.1016/b978-0-323-40196-8.00056-5.

3)Prototypic seizure activity driven by mature hippocampal fast-spiking interneurons, J. Neurosci., 30: 13679 - 13689, 2010

4)Paola Fadda, Lianne Robinson, Walter Fratta, Roger G. Pertwee, Gernot Riedel, Differential effects of THC- or CBD-rich cannabis extracts on working memory in rats, Neuropharmacology, Volume 47, Issue 8, 2004, Pages 1170-1179, ISSN 0028-3908

5)file:///Users/hide/Downloads/CannabidiolCriticalReview.pdf

6)Nagarkatti, Prakash, et al. “Cannabinoids as Novel Anti-Inflammatory Drugs.” Future Medicinal Chemistry, vol. 1, no. 7, 2009, pp. 1333–1349., doi:10.4155/fmc.09.93.

7)Murillo-Rodriguez, Eric, et al. “Anandamide Enhances Extracellular Levels of Adenosine and Induces Sleep: An In Vivo Microdialysis Study.” Sleep, vol. 26, no. 8, 2003, pp. 943–947., doi:10.1093/sleep/26.8.943.