#40 アスリートのための睡眠の質を改善する方法【刺激制限療法】

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アスリートにとって、いかに睡眠の質をあげて心身を回復させるかと言うことがとても重要になってきます。ある研究からも睡眠障害はスポーツの身体的パフォーマンスと認知能力に影響が出るかもしれないことが言われています。

ヨーロッパのサッカー選手でよくある話では、夜8時や9時から始まる試合後の夜になかなか寝付けないと言うことを良く耳にします。これは試合中のに交感神経が優位に働くことでアドレナリンの分泌が多く試合後にうまく副交感神経に切り替わることができないために夜中でも脳が興奮したままで寝付けないことが起きると予想されます。このことで試合後に少しでも回復したいと思ってもできないことがあり、過密日程で連戦が続く中では特に睡眠は重症で、睡眠の時間・質が下がると怪我のリスクやパフォーマンスの低下を引き起こしてしまう可能性も出てきます。

アスリートに対しての不眠症の治療のための認知行動療法の中の一部の方法で刺激制限療法 (Stimulus Control Therapy) というアプローチ方法を紹介している文献も見られます。試合後にアスリートが寝付けない場合においても効果があるのかどうかまでの研究論文は見つけることはできませんでしたが、刺激制限療法が役に立つ可能性はあると思います。また、アスリートではなく一般の方で不眠症の方には良いアプローチ方法なので試す価値は大いにあります。実際に認知行動療法の他の方法とともに行うことで、刺激制限療法はいくつかのタイプの不眠症に対して有効であることが科学的にも証明されています。

この刺激制限療法の主な目標は、ある条件によって普段無意識で行っている行動パターンを脱構築することと言われてます。そして、睡眠における意識的もしくは無意識的に行っているベッド上や寝室での行動を制限し、心身への刺激をコントロールしていきます。さらに、この刺激の制限はベッドに入ってから寝るまでの時間をより早くできることが期待できるとされています。

本記事では、この刺激制限療法の方法を詳しく解説していきます。

目次

  • 睡眠の質を改善する具体的な方法
    1. 眠たい時にだけ寝る
    2. 寝る時以外ベットに入らない
    3. 寝付けない時は一度ベットから出て別の部屋で眠くなるまで待つ
    4. 起きる時間は固定する
    5. 30分以上の昼寝をなくす
  • 刺激制限療法と一緒に行うとさらに効果がある3つのこと
  • 実施にあたり失敗する可能性がある事柄
  • まとめ

睡眠の質を改善する具体的な方法

睡眠の質を改善する具体的な方法
それでは、睡眠の質を改善できることが期待される刺激制限療法の具体的な方法を紹介していきます。

1. 眠たい時にだけ寝る

不眠症の症状を持っている人は、睡眠のリズムを整えようと決められた時間に寝ようとする傾向があります。しかし多くの場合、自分が決めた時間にベットに入ってもなかなか寝れずに逆にストレスや不満を増強させてしまう恐れがあります。そのため、眠たいと感じた時にベットに入ることでベットに入ってから寝れるまでの過程をスムーズにします。

2. 寝る時以外ベットに入らない

寝る時以外ベットに入らないということは、睡眠の質を上げるために最も重要なことです。これは、“ベットの上で横たわる” という行為と “寝る” という行為を結びつけるためです。ベットの上にいる時に寝る以外のことをしてしまうと、いざ寝ようと思う時に脳が寝るというサインを認知できずになかなか眠りにつくことが難しくなります。

では実際にどのようなことをついついしてしまうかというと

本を読む
テレビを見る
ゲームをする
インターネットを見る
仕事をする
携帯を見る

などのようなことです。

ほとんどの夜寝付きが悪い人は、上記のようなベットの上で寝る以外のことを行っている傾向あります。そのような人は、いますぐ寝る以外はベットに入らないことをお勧めします。

3. 寝付けない時は一度ベットから出て別の部屋で眠くなるまで待つ

厳密的には、15分以内に寝ることができない人はベットから出て眠くなるのを待つことを推奨していますが、寝なければいけないというプレッシャーを感じてむしろ寝れなくなるケースもあるため、最長でも一時間寝れなかった場合にベットから出る方がいいとされています。ベットから出て別の部屋にいってからは、リラックスできる環境がベストなので部屋の照明はできる限り暗くして携帯やパソコンなどの強い光に近づかないようにします。ただし、テレビを遠くから見たり最小限の光で読書をするなどのアクティビティは行ってもあまり影響は出ないとされています。そして、このようなアクティビティをしている最中に眠くなってきたら再度ベットに戻って眠るようにします。

4. 起きる時間は固定する

先ほど話した通り、ほとんどの人は寝る時間をいつも同じ時間にしようとしますが、実は起きる時間をいつも同じにした方がいいのです。これを継続することによって脳が起きる時間を覚えてくれて短い睡眠でも自然と目が覚めるようになります。休日などの休みの日も理想を言えば平日と同じ時間に起きた方がいいとされています。
また徹夜などの場合で寝る時間が遅くなり、朝方から昼や夕方まで寝たことを経験したことがある人もいるかもしれませんが、このような場合は睡眠のリズムが狂い夜なかなか寝付けなくなってしまうことが多いです。そのためこの場合にも起きる時間は固定した方が良く、睡眠不足分、寝る時間を早めにするといいです。また、個人的な経験からもヨーロッパから日本に帰った時に時差ぼけを直す方法として、眠くても日中に寝ることは我慢して夜まで起きて夜の10時から12時の間には寝ることで、すぐに時差ぼけも改善できています。(人によっては自分の体内時計を変えることがなかなかできない人もいるので、時差ぼけが改善する時間には個人差があるのはしょうがないことです。)

5. 30分以上の昼寝をなくす

30分以上の昼寝してしまうことで、夜の寝付けに悪影響を与えてしまいます。逆に30分以下の昼寝であれば、パワーナップとも呼ばれていて心身ともに回復するとされています。また、15分〜30分の昼寝は夜の睡眠の3時間相当に匹敵するということも言われているため、睡眠不足や脳や体の疲れが残っていると感じる人にはお勧めです。また、昼寝をする直前にコーヒーなどのカフェインが多い飲み物を飲むことで、カフェインが効き始めるタイミングで目を覚ますことになるので、目覚めが良くなるので30分だけ寝ようとしても1時間以上寝てしまうような人は試してみるといいです。

刺激制限療法と一緒に行うとさらに効果がある3つのこと

昼寝前にコーヒーを飲む

すぐ上でお伝えした通り、昼寝をする直前でコーヒーのようなカフェインが多く含まれている飲み物を飲むことで昼寝がしやすくなります。また、朝起きたらすぐに水を飲むことで体の体内時計をスタートさせる効果もあります。
以前書いたこちらのブログもあわせて読んでみてください!

スムーズ機能を使わない

朝なかなか起きれず二度寝をしてしまう人の特徴として、スムーズ機能を使っていることが挙げられます。本来であれば、目覚まし時計が聞こえたら脳は起きる信号を体におるべきですが、スムーズ機能で二度寝ばっかしてしまうと、目覚まし時計の音が聞こえたら目覚ましを消すという脳の反応を癖付けてしまいます。このことが続くことで、音が鳴ったことを気づかずに反射的に目覚ましを止めてしまうということが起きてしまいます。これは反射反応の話で有名なパブロフの犬と同じ原理です。パブロフの犬ではチャイムが鳴ったらご飯が出されるという習慣を一度つけられた犬はチャイムが鳴っただけでよだれがでてしまうということが起きます。このような脳と体の反応が起きないようにスムーズ機能は使わない事が大切です。

寝る前に不安や自分自身を責めていることを書き出し、許してあげる

寝付きが悪い人の中には、今日あった出来事や最近心配している出来事で頭がいっぱいになり考え事をしてしまって寝れないケースもあります。このような場合は、寝る前に頭で考えていることを一度紙面上などでアウトプットすることで頭が整理されて寝付きやすくなります。特に不安や今日1日で自分自身を責めたことを書き出し、それに対して自分自身で許してあげることをするとストレスが減り、副交感神経が優位になりやすくなります。

実施にあたり失敗する可能性がある事柄

寝付けない時にベットから出ようと思ってもなかなかベットから出れないこともある可能性はあります。このようなことは寒くてベットから出たくないや何をしていいかわからないというようなこともあるかと思います。そのため、このような事が起きないように事前に何が自分の行動のブレーキになるのかを予測して、暖かい服や本や雑誌を用意したりする事が大切です。

まとめ

まとめ
以下が刺激制限療法の方法になります。

1. 眠たい時にだけ寝る
2. 寝る時以外ベットに入らない
3. 寝付けない時は一度ベットから出て別の部屋で眠くなるまで待つ
4. 起きる時間は固定する
5. 30分以上の昼寝をなくす

この5つのことを習慣化させることで、睡眠の質の改善につながり、アスリートとあれば日中にいいパフォーマンスでプレーができ、一般の人であれば疲れを抱えないで仕事や趣味に打ち込む事ができる手助けをしてくれると思います。

ここで大事なマインドセットとして、忙しかったり、寝付けが悪くて睡眠時間が短くなっててしまう時に考えて欲しいのは、『今日の睡眠が短ければ、明日の夜はもっと良く寝れる』という事です。

ぜひ実践してみてください!

引用・参考文献

1. Leger D, Metlaine A, Choudat D. Insomnia and sleep disruption: relevance for athletic performance. Clin Sports Med. 2005 Apr;24(2):269-85, viii. doi: 10.1016/j.csm.2004.12.011. PMID: 15892923.

2. Morin CM, Hauri PJ, Espie CA, Spielman AJ, Buysse DJ, Bootzin RR. Nonpharmacologic treatment of chronic insomnia. An American Academy of Sleep Medicine review. Sleep. 1999 Dec 15;22(8):1134-56. doi: 10.1093/sleep/22.8.1134. PMID: 10617176.

3. Timothy M, Milton Kramer. Practice Parameters for the Psychological and Behavioral Treatment of Insomnia: An Update. An American Academy of Sleep Medicine Report,  Standards of Practice Committee of the American Academy of Sleep Medicine.