#106 足首の捻挫に対しての基本的な知識

ALL REHABILITATION THERAPIST

前回は、足関節の基本的な評価法について紹介してきました。

本記事では、足関節の捻挫に対しての基本的な知識をいくつか紹介していきます。

足首の捻挫は、内反捻挫と呼ばれる足首の外側の靭帯を損傷することで良く知られています。

具体的には、最も頻繁に負傷する前距腓靭帯、そして踵腓靭帯、後距腓靭帯などがあります。また、稀ではありますが内側の三角靭帯を損傷する外反捻挫と呼ばれる捻挫もあります。

以下の図で靭帯を確認してみてください。
前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯

それでは、さらに足首の捻挫の知識についてお伝えしていきます。

目次

  • 足首の捻挫が起こる理由と疫学について
  • 一般的な足首捻挫の治療の流れと予後因子
  • 整形外科的テストによる足首の靭帯損傷と骨折の診断方法
  • まとめ

足首の捻挫が起こる理由と疫学について

足首の捻挫が起こる理由と疫学について

足首の捻挫が起こる理由

文献によって足首の捻挫の受傷理由が紹介されています。足首の捻挫の受傷理由の一つとして足首の回内筋の反応時間の遅延が理由であるとしています。 主に腓骨筋の反応時間の遅延により、足首の回外ストレスの反応できず、内反捻挫を引き起こす可能性があります。1)

足首の捻挫の多くは通常、スポーツ時に起こります。サッカーにおいての捻挫が引き起こされる因子を調べた研究では、足または足首に対しての内反、外反ストレスが生じる内側や外側からのタックルによって起きることがわかっています。また、同研究で衝突時に足に体重がかかることが捻挫を起こす重大な危険因子であることも報告しています。2)

疫学について

オランダでの研究論文ですが、オランダの開業しているクリニックにおける足首の捻挫の発生率は、年間1000人の患者のうち8人であり、15〜24歳の男性でよく起こるとされています。3)

これらの怪我の大部分はサッカー選手で発生し、他にもフットサル、ハンドボール、フィールドホッケー、陸上競技、バスケットボール、バレーボール、(フィギュア)スケートなどのリスクの高いスポーツで発生しています。足首の捻挫を起こした人の中の 20〜50%が、損傷後に慢性的な足首の痛み、または関節の不安定性を持っていることが別のオランダの研究でも報告されています。4)

一般的な治療の流れと予後因子

一般的な治療の流れと予後因子

一般的な治療の流れ

足関節捻挫の予後は良好で、患者の 36-85% が約2週間から 36か月の間に完全に回復します。5)

グレード1のような軽度の損傷であれば、通常、患者は 14 日以内に通常の ADL 機能に戻ることができます。これらの患者は、最初の診察以外に理学療法の介入を必要しないケースがほとんどです。もし怪我の程度がわからず心配で1週間後にも痛みや腫れが続く場合は、ドクターや専門家に再度診てもらうことが推奨されています。また、怪我をした人がスポーツをしている場合は、スポーツによる負荷が高いため、軽度の怪我であっても専門家による治療やトレーニングをしたほうがいいです。

重症な捻挫の場合は、確実に専門家による治療やトレーニングが必要です。論文ベースでの一般的な治療・トレーニング期間は6週間で、週に1回行われることがほとんどです。怪我人がプロ選手のような高いレベルでの競技パフォーマンスをしなければならない場合は、治療やトレーニングは週に1回ではなく毎日のようにできるだけ多くの回数を行うことで、早期復帰が可能になります。

2018年の論文ベースで推奨されている足関節の介入するポイントは以下の通りです。7)

●受傷後の足首の完全固定は痛みや腫れを和らげるのに役に立つかもしれないが、運動プログラムと組み合わせたブレースやテープの使用が最も治癒過程を促進する可能性がある。
●RICE処置は現時点で推奨されていません。
●非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) は痛みと腫れを軽減させるために使用されますが、副作用や自然治癒プロセスを抑制する可能性もあるため、この薬の使用は議論の余地があります。
●リハビリは、適切な負荷のコントロールをした関節を安定させるためエクササイズのプログラムが受動的なモビライゼーションよりも推奨されています。
●リハビリでうまく良くならないケースや早期復帰を目指すプロアスリートの場合には手術が必要な場合があります。

予後因子

2014年の論文では、捻挫の損傷の程度が唯一の予後因子として言われていました。6)
しかし、2018年の論文では、怪我をした人のリハビリやトレーニングの量、そして復帰を目指すスポーツのレベルが予後因子として重要な役割を果たしていることが報告されています。7)

整形外科的テストによる靭帯損傷と骨折の診断

整形外科的テストによる靭帯損傷と骨折の診断

靭帯損傷の診断

一般的に行われる靭帯損傷の有無を調べる整形外科的テストは前方引き出しテスト(Anterior Drawer Test)距骨傾斜テスト(Talar Tilt Test)です。

靭帯損傷の程度は以下の3つのグレードによって分類されています。

* グレード 1 (靭帯の伸長):肉眼的に裂傷のない靭帯の伸長、わずかな腫れや圧痛、最小限の機能低下、関節の不安定性はない。
* グレード 2(部分断裂):靭帯の部分的な肉眼的な断裂、痛み、腫れと圧痛、ROMの制限、軽度の不安定。
* グレード 3 (破裂): 顕著な腫脹、血腫、圧痛を伴う靭帯の完全断裂。機能の喪失 (体重に耐えられない) および ROM の明らかな喪失および不安定性の存在

検査方法は以下の通りです。

前方引き出しテスト(Anterior Drawer Test)

ベット上で膝を軽度屈曲してもらい、足関節の底屈を約10〜15度にする。片方の手で踵を持ち反対の手で脛骨の前面をおさえ、足部を前方にスライドさせる。

スライドさせた時に健側よりも前方にずれるのが大きい場合や前外側の足関節に凹みが見られる場合はポジティブとなります。

距骨傾斜テスト(Talar Tilt Test)

前距腓靭帯:足関節を最大底屈位にし、内返しの方向にストレスをかける。
踵腓靭帯・三角靭帯:足関節を中間位にし、内返しの方向・外返しの方向にストレスをかける。
後距腓靭帯:足関節を最大背屈位にし、内返しの方向にストレスをかける。

痛みや関節の緩みがある場合はポジティブとなります。

骨折の診断

急性の足首の損傷で、骨折が見られるのは15%未満ですが、骨折の有無を調べるための検査は臨床上不可欠です。 レントゲンを使わずに骨折の有無を検査する方法として、オタワアンクルルール(Ottawa Ankle Rules)というのがあります。

具体的な検査法は以下の通りです。

1:内・外顆から近位へ向かって6cmまでの脛骨・腓骨の横後方の部位に痛みがあるか指で押して触診する。
2:舟状骨と第5中側骨に痛みや緊張があるか指で押して触診する。
3:4歩、足を出して歩けるか確認する。

この3つのうち1つでもポジティブなテスト結果が出た場合は、25-50%の確率で骨折がある疑いがあ理、レントゲンで確認する必要があります。
もし、この3つのテストが全てネガティブな場合は、ほぼ100%に近い確率で骨折がないとされています。

他の足関節の整形外科的テストはこちらをご覧ください。

まとめ

  • 足首の捻挫の受傷理由は、足首の回内筋の反応時間の遅延やスポーツにおける内反、外反ストレスが生じる内側や外側からのタックルによる。
  • オランダにおいて、足首の捻挫の発生率は年間1000人の患者のうち8人であり、15〜24歳の男性サッカー選手でよく起こる。
  • リハビリ過程において、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) やRICE処置は推奨されておらず、適切な負荷エクササイズやモビライゼーションが推奨されている。
  • 靭帯損傷の診断においては、前方引き出しテスト(Anterior Drawer Test)と距骨傾斜テスト(Talar Tilt Test)、骨折の診断においては、オタワアンクルルール(Ottawa Ankle Rules)が臨床的に行われる。

今回は足首の捻挫に関して論文のデータを交えて基礎的な知識を紹介してきました。現在では、痛み止めの薬やRICE処置があまり推奨されていないこともあり、現場での対応が、昔と少し変わってきている印象もあります。このような議論は現場で常にされていることでもあり、トレーナーとしては選手とよく相談して治療方針を決めていく必要があるなと感じています。

スポーツをしている人も今回紹介した足首の捻挫に関しての知識を活かして、捻挫をしてしまった場合にどのように良くしていくのかを考える一つの材料にしてみてください。

参考文献

1)Ashton-Miller JA, Ottaviani RA, Hutchinson C, Wojtys EM. What best protects the inverted weightbearing ankle against further inversion? Evertor muscle strength compares favorably with shoe height, athletic tape, and three orthoses. Am J Sports Med. 1996 Nov-Dec;24(6):800-9. doi: 10.1177/036354659602400616. PMID: 8947403.

2)Giza E, Fuller C, Junge A, Dvorak J. Mechanisms of foot and ankle injuries in soccer. Am J Sports Med. 2003 Jul-Aug;31(4):550-4. doi: 10.1177/03635465030310041201. PMID: 12860543.

3)MW van der Linden, GP Westert, DH de Bakker, FG Schellevis. Tweede Nationale Studie naar ziekten en verrichtingen in de huisartspraktijk. Klachten en aandoeningen in de bevolking en in de huisartspraktijk.

4)van Dijk CN, Mol BW, Lim LS, Marti RK, Bossuyt PM. Diagnosis of ligament rupture of the ankle joint. Physical examination, arthrography, stress radiography and sonography compared in 160 patients after inversion trauma. Acta Orthop Scand. 1996 Dec;67(6):566-70. doi: 10.3109/17453679608997757. PMID: 9065068.

5)van Rijn RM, van Os AG, Bernsen RM, Luijsterburg PA, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM. What is the clinical course of acute ankle sprains? A systematic literature review. Am J Med. 2008 Apr;121(4):324-331.e6. doi: 10.1016/j.amjmed.2007.11.018. PMID: 18374692.

6)Pourkazemi F, Hiller CE, Raymond J, Nightingale EJ, Refshauge KM. Predictors of chronic ankle instability after an index lateral ankle sprain: a systematic review. J Sci Med Sport. 2014 Nov;17(6):568-73. doi: 10.1016/j.jsams.2014.01.005. Epub 2014 Feb 6. PMID: 24589372.

7)Vuurberg G, Hoorntje A, Wink LM, van der Doelen BFW, van den Bekerom MP, Dekker R, van Dijk CN, Krips R, Loogman MCM, Ridderikhof ML, Smithuis FF, Stufkens SAS, Verhagen EALM, de Bie RA, Kerkhoffs GMMJ. Diagnosis, treatment and prevention of ankle sprains: update of an evidence-based clinical guideline. Br J Sports Med. 2018 Aug;52(15):956. doi: 10.1136/bjsports-2017-098106. Epub 2018 Mar 7. PMID: 29514819.

8)Lynch SA, Renström PA. Treatment of acute lateral ankle ligament rupture in the athlete. Conservative versus surgical treatment. Sports Med. 1999 Jan;27(1):61-71. doi: 10.2165/00007256-199927010-00005. PMID: 10028133.

9)Renström PA, Konradsen L. Ankle ligament injuries. Br J Sports Med. 1997 Mar;31(1):11-20. doi: 10.1136/bjsm.31.1.11. PMID: 9132202; PMCID: PMC1332467.

10)Croy T, Koppenhaver S, Saliba S, Hertel J. Anterior talocrural joint laxity: diagnostic accuracy of the anterior drawer test of the ankle. J Orthop Sports Phys Ther. 2013 Dec;43(12):911-9. doi: 10.2519/jospt.2013.4679. Epub 2013 Oct 30. PMID: 24175608.

11)Rosen AB, Ko J, Brown CN. Diagnostic accuracy of instrumented and manual talar tilt tests in chronic ankle instability populations. Scand J Med Sci Sports. 2015 Apr;25(2):e214-21. doi: 10.1111/sms.12288. Epub 2014 Jul 4. PMID: 24995627.

12)Bachmann LM, Kolb E, Koller MT, Steurer J, ter Riet G. Accuracy of Ottawa ankle rules to exclude fractures of the ankle and mid-foot: systematic review. BMJ. 2003 Feb 22;326(7386):417. doi: 10.1136/bmj.326.7386.417. PMID: 12595378; PMCID: PMC149439.