#171 内転筋とは何か、そして内転筋を機能させるためには?
内転筋はトレーニングなどをしている人にとって一度は聞いたことがある筋肉名だと思います。トレーニングマシンでいうとアダクションマシンを使って鍛えたりでき、主に脚を内側方向に持っていく時に働く筋肉になります。
内転筋は、他にも立位時や片足立ち時、スクワット、ランジなどにも非常に重要な筋肉です。さらにあまり知られていないことですが、この内転筋は股関節をうまく使えるようにするために非常に大切な筋肉であり、体軸の形成にも関わっています。
本記事では、この内転筋の機能解剖学から実践に関わるところまで考察させていただいます。
目次
- 内転筋とは?
・基礎的な機能解剖
・股関節をうまく使えるようになるために必要な筋肉
・体軸を作るために必要な筋肉 - 内転筋を機能させるためには
・脚を動かして内転筋の収縮を感じる
・立って内転筋を感じる
・スクワットで内転筋を感じる - まとめ
1.内転筋とは?
内転筋とは、恥骨筋、薄筋、短・長内転筋、小・大内転筋をまとめた内転筋群のことを指し、股関節の内転作用の主動筋です。
基礎的な機能解剖
内転筋群は腿の内側に位置し、表層、中間層、深層の3層に分かれています。
表層には、恥骨筋、長内転筋、薄筋が位置します。これらの筋肉の付着部は、近位で恥骨上枝と下枝、恥骨体で、遠位で恥骨筋と長内転筋は大腿骨粗面線の近くに沿って大腿骨後面に停止します。そして薄筋は、脛骨近位内側に停止します。
中間層には、短内転筋が位置し、付着部は恥骨下枝から大腿骨粗線の近位1/3に停止します。
深層には、小・大内転筋が位置し、付着部は、坐骨枝全体と坐骨結節から起こり、前頭と後頭に分かれます。前頭は、大腿骨粗線の近位端に停止し、小内転筋のことを指し、閉鎖神経に支配されています。後頭は、大腿骨遠位内側の内転筋結節に腱として停止します。後頭は、坐骨神経支配であり、ハムストリングスと似た作用を持ちます。
股関節をうまく使えるようになるために必要な筋肉
内転筋群は、股関節の全ての運動面において作用があるため、股関節をうまく使えるようになるためにとても重要な筋肉になります。この内転筋群が何らかの理由でうまく機能しないとその代償として、他の筋の負担が増えて怪我の元につながります。
具体的に股関節の内転、屈曲・伸展、内旋の作用について内転筋がどのように機能するのかを紹介します。
内転作用
内転筋は内転方向への動きを作る主動筋になります。そのため、大腿骨を体の中心に動かすときや骨盤を大腿方向に下制するときに働きます。
屈曲・伸展作用
大内転筋はハムストリングスと同様の作用で、全ての股関節の角度で伸展作用があります。また長内転筋は、股関節の屈曲約60度を境に60度以下でれば屈曲作用、60度以上であれば伸展作用を持ちます。股関節が最大屈曲時は、内転筋群は伸展作用を持ち、最大伸展時は屈曲作用を持ちます。そのため、スプリントなどの走る動作時に、内転筋群は常に作用していることになります。
内旋作用
股関節の内旋には主動筋がなく、補助筋として小臀筋と中臀筋の前部繊維、大腿筋膜張筋、長内転筋、短内転筋、恥骨筋があります。また、内側ハムストリングスも内旋に補助的に作用します。
股関節屈曲0度で長内転筋は内旋作用を持ちます。小臀筋と中臀筋の前部繊維は、股関節屈曲角度が約90度くらいになると内旋に対する作用が高まり、中臀筋に関しては屈曲0度と比べると8倍もの内旋モーメント・アームが増加します。さらに、股関節屈曲90度あたりから、外旋作用を持つ梨状筋などは内旋方向に作用するようになります。
以上のように、内転筋群は内転方向だけでなく、屈曲・伸展と内旋方向にも働き、股関節を動かすにはとても重要な筋肉になります。
体軸を作るために必要な筋肉
体軸を作るために必要な筋肉の一つとして、内転筋群が挙げられます。
体軸については以下の記事を参考にしてみてください。
#168 体軸の感覚を作るための方法
体軸とは、とても抽象的な言葉で、実際に体軸とはなんなのかを理解している人は少ないのではないかと思います。実際に僕もこの体軸を自分の体を持って体感するまでは、『体軸は体の軸であることはわかるけど、体軸ができてるのか、できてないのか正直わからない』というのが本音のところでした。
多くの人の場合この内転筋群が正常に働かせることができず、体軸を作ることができません。この内転筋群が正常に働かない理由の一つとして、骨盤の後傾位での姿勢にあります。骨盤が後傾してしまうと股関節が外旋位になりやすく、内旋作用のある内転筋群が機能しづらくなります。O脚の人も同様に骨盤の後傾位の姿勢で、内転筋群が機能していない人がほとんどです。そのため、骨盤の位置を正し、内転筋群が使われやすい姿勢になり、日常的に内転筋群が機能するようにする必要があります。体軸が作られない場合は、動作時に無駄な動きが増えてしまいエネルギーをより多く使ってしまうので、怪我がしやすくなったり、パフォーマンスが低下する原因になったりします。
2.内転筋を機能させるためには
先ほど、内転筋を機能させるためには骨盤の位置を正すということを書いました。そのためにも骨盤を意識的に自由に動かせる能力が必要になります。そのことにより、様々な姿勢で骨盤の位置を変化させることができ、内転筋が機能するポジションに骨盤を持っていくことが可能になります。
内転筋を機能させるために簡単なステップとして、以下に紹介しますので、参考にしてみてください。
脚を動かして内転筋の収縮を感じる
まずは、内転筋がどこにあってどうすると収縮して意識できるのかを確認します。そのため、内転筋の主な作用である内転作用をして内転筋が収縮するのを感じてみてください。座位や立位の姿勢で、両脚を内側方向に力を入れていきます。
片足立ちで内転筋を感じる
次に、内転筋の収縮を感じられたら、片足立ちの状態で内転筋の収縮を感じれるようにします。左足で立っている場合は、右の骨盤を下げて左の股関節に向けて骨盤を回旋させていくと内転筋を感じやすくなります。片足立ちで内転筋を感じることは、骨盤の自由度が必要になってくるので感じれない人は、股関節の柔軟性を上げたり、骨盤を動かす練習をしてから再度試してみると感じられるようになります。
スクワットで内転筋を感じる
最後のステップとして、スクワットで内転筋の収縮を感じられるようにします。これはかなり難易度が高く、片足立ちの時よりもさらに骨盤の自由度が必要になります。スクワットは立位の姿勢から、腰を落としてしゃがむ動作のことですが、しゃがむ時に骨盤がしっかりと前傾し、股関節が内旋する必要があります。この動きがうまくできているとスクワット時にも内転筋を感じることができます。感じられない人は、先ほどと同様に股関節の可動域の改善、骨盤を動かす練習、さらにヒップヒンジの練習、胸郭の柔軟性の向上を取り組んでいくと感じられるようになります。
3.まとめ
本記事では、 内転筋とは何か、そして内転筋を機能させるためにはどうするべきかについて書かせていただきました。
内転筋は、股関節を動かす上でどの動作にも多く関わるとても大切な筋肉です。そして、内転筋が正しく機能しないことで、他の筋肉が代償して過負荷となり怪我の元となってしまう恐れがあります。また、体軸を作るためにも必要な筋肉であるため、動作時のパフォーマンスにも大きく影響してきます。
内転筋を機能させるためには、まずは内転筋の収縮する感覚を覚えてもらうことが第一です。そして、それが分かれば片足立ちやスクワットの動作でも内転筋の収縮を感じられるようにします。
これらを感じることができるようになれば、あとは他の動作時にも内転筋の収縮を促せるように、意識的にトレーニングを積んでいく必要があります。
内転筋は、意識的にトレーニングを行なっていかないとなかなか機能し始めない筋肉であるので、地道にやってみることをお勧めします。
#82 内転筋を鍛えて体幹を強くする方法
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