#88 ウエイトトレーニングでは鍛えられない複合運動によるパフォーマンス向上の方法
フリーウェイトやマシンでのトレーニングは、どのくらいの重量をあげられたかにフォーカスされやすく、筋肥大の目的で行われることが多いです。
しかし、パフォーマンスの改善を図るには、持っている筋力をそのスポーツ動作に最大限に活かせるように動作と筋出力を結びつける必要があります。
— 桑原秀和(Hide. Kuwabara)🇳🇱🇧🇪 (@HiddeKuwabara) May 26, 2021
競技パフォーマンスの向上の一つの方法として一般的に知られているのは、ウエイトトレーニングによる筋力の向上を目的としたトレーニング法です。このウエイトトレーニングでは筋肥大による筋力の向上や筋に対する運動単位の増加による筋出力の増加によりパフォーマンスを向上させることができます。
しかし、よく聞く話として筋肉量を多くした結果、体が重くなりパフォーマンスが低下したという経験をして、ウエイトトレーニングをやめてしまうアスリートの方もいることは事実としてあります。ここで誤解して欲しくないのですが、ウエイトトレーニングをして体がでかくなることでパフォーマンスが低下するわけではありません。
体がでかくてもスピードが落ちていないアスリートの例として挙げると、ラグビー選手であったり、個人的な名前でいくとハンマー投げの室伏選手であったり、サッカー選手でもルカクという選手もいたりします。
ではなぜウエイトトレーニングによって体を大きくしたことで競技パフォーマンスが落ちたのかというと、ウエイトトレーニングでは鍛えることのできないスポーツ動作に特化した複合的な動きの筋出力が向上していないためであると考えられます。
つまり、ウエイトトレーニングのように単一方向での動きで筋出力を高く出せても、それ以外の複合的な動きに対しては筋力があっても筋出力として高く出せない体であるということです。そのため持っている筋力をスポーツ動作にも活かせるように神経単位で鍛えていく必要があります。
本記事では、ウエイトトレーニングでは鍛えられない複合運動を利用してのパフォーマンスの向上の方法について紹介していきたいと思います。
ウエイトトレーニングの賛否について書いた記事もあるのでよかったら読んでみてください。
ウエイトトレーニングの賛否
ウェイトトレーニングの賛否について、さらに踏み込んだ私の個人的な見解を書いていきたいと思います
目次
- スポーツ現場での複合運動に対する認知
- 筋力をスポーツ動作に結びつけていくために複合運動を利用する
- まとめ
スポーツ現場での複合運動に対する認知
スポーツ選手を対象にしたスポーツ障害におけるリハビリテーションでは、理学療法士やアスレチックトレーナー、柔道整復師などが関わることがほとんどです。
そしてこれらの専門家が関わる中で、一般的に行われるアプローチ方法として
運動する(自動運動および抵抗運動)
治療をする(可動域改善、疼痛の軽減)
マッサージをする(リラクゼーション)
が挙げられます。
このようなアプローチだけでリハビリテーション、そして競技復帰に向けてのエクササイズが行われているのが現状です。しかし、スポーツ競技まで身体をしっかりと使えるようにするためには、このようなアプローチだけでは不十分であり、複合運動を取り入れていく必要があります。
具体的に複合運動とは何かというと、一つの目的動作があった場合に一方向の単一な動きではなく3次元で捉えた運動のことを言います。
関節運動には主に(1)屈曲・伸展、(2)外転・内転、(3)外旋・内旋の3つの要素が含まれています。
スポーツ動作においては、この関節運動が一つの要素だけで完結することはなく、3つの要素が組み合わさって動きを作っていきます。また、筋肉自体の骨への付着部をみてみても、肘の屈曲に関してただ屈曲するのではなく肘の回旋の要素も合わさっていることがわかります。
そして、スポーツパフォーマンスを向上させる目的で効率の良い動きを作るためには、目的が肘の屈曲であっても若干の回旋が加わったり、肩の外転運動が主目的であっても伸展の動きや外旋の動きが加わったりすることが求められます。つまり、これらの運動はスポーツ動作において単一の運動ではなく三次元的にそして多くの場合、螺旋的・対角線的なパターンで構成されています。
一般的に行われているリハビリテーションやウエイトトレーニングなどでは、このような複合運動パターンを訓練することが極めて難しいです。ウエイトトレーニングはバランスを保持しながらいかに重量を持ち上げるかに目的をおいており、マシンを使ったものに関しても三次元に螺旋的・対角線的なパターンを作りながらトレーニングすることはできません。
この複合運動をトレーニングとしてスポーツ選手に取り入れていくことで、スポーツ動作でよく生じる対角・螺旋運動の動きの質を高めることができます。そして脳から筋肉に対しての指令をスムーズにさせてこのような動きに対しての筋出力も高めてくれることが期待できます。
筋力をスポーツ動作に結びつけていくために複合運動を利用する
複合運動は、前述のように単関節が複合して動く以外にも全身の各関節が連動して動く複合運動もあります。全身の複合運動の方が実際にはスポーツ動作に近く実践的な動きになります。しかし、トレーニングとして全身の複合運動をトレーニングすることは極めて難易度が高いため、分習法を利用して最終的に全習法へとつなげていく方法をとると目的動作の改善につなげやすくなります。
例えば、前に踏み込むという動作でより安定性を高めたい場合には足関節の底屈筋、股関節の伸展筋がしっかりと連動していることが大切になります。また、三次元で考えた場合には、同時に内外旋の動きも連動している必要があります。この動きを分習法で行う場合、ベッド上で足関節の底屈運動を促していきます。足関節の底屈の動きには大きく分けると以下の2つの複合パターンがあります。
足関節の底屈 | 足部 | 股関節 |
パターン1 | 内返し | 伸展・内転・外旋 |
パターン2 | 外返し | 伸展・外転・内旋 |
初めは足関節の底屈だけを抵抗運動などでトレーニングして、その後しっかりと底屈運動が行えるようになってから、この2つのパターンの連動を意識しながら足関節の底屈を促していきます。そうすることで、初めは足関節の底屈だけの運動が放散現象といってお尻の方まで筋収縮が促されるようになり、足関節の底屈からの連動でお尻の筋肉が働くようになります。また、このような連動パターンを繰り返していくことで、連動が体幹部まで波及して体幹の筋群の安定性にも大きく影響していきます。
このような連動パターンは上下肢にいくつもあり、全身の動きを作っていくと実際には何十通りもの連動パターンを促すことも可能になります。そして、末端の関節から体幹部までの連動を作ることができ末端の動きで体幹部の安定性にも関与させることもできるのです。
この複合運動のトレーニングは、筋力を高めるためという意味合いではなく運動パターンを使って筋出力を上げていく作業でもあり、スポーツ動作でのいろいろな状況に応じた筋肉の反応を高めてくれることにもつながります。その結果として、どの動作でも体が安定して軸が取れた状態で様々な動きにうつることが可能になります。
まとめ
- ウエイトトレーニングでパフォーマンスが下がる理由として、筋力が上がっても複合運動での筋出力が上がっていないためである。
- 関節運動には主に(1)屈曲・伸展、(2)外転・内転、(3)外旋・内旋の3つの要素が含まれている。
- 複合運動とは、一方向の単一な動きではなく3次元で捉えた運動のことである。
- スポーツ動作の改善をするためには、複合運動で螺旋的・対角線的なパターンの動きの質の向上をすることが効果的である。
- 末端の関節の動きから四肢を連動させることで体幹部の安定性を高めることも可能である。
以上のように、複合運動の質を高めていくことで、スポーツのパフォーマンスの向上につながるようになります。
ウエイトトレーニングをしているだけではどうしてもパフォーマンスの限界がきてしまうことが予想できますし、実際にそのように経験しているスポーツ選手がいると思います。そのような場合には、身体の連動を意識したトレーニングを専門のトレーナーなどにみてもらいながら行いパフォーマンスの向上につなげてみてください。
また、トレーナーであっても身体の仕組みをしっかりと理解した上で、どのようなトレーニングがパフォーマンス向上につながるのかをしっかりと見極めて行えるようにしてみてください。僕自身も常に勉強でもありますし、選手のために最善のトレーニングを行えるように成長を続けていければと思っています。